お正月の朝。
家の中は朝からそわそわしていた。
「ステラちゃん、着物こっちで着せてあげるわよ」
おばあちゃんの声に、ステラは少し緊張した顔をして立ち上がった。
「Kimono… little difficult?(ちょっと難しそう?)」
「大丈夫、大丈夫。おばあちゃんにまかせなさい」
私は横で見守っていたけど、ステラお姉ちゃんが着付けされていく姿に思わず見とれてしまった。
鮮やかな赤い振袖に金の帯。
金髪に合わせて選んだんだってお母さんが言ってたけど、本当にぴったりだった。
「……Wow. I feel like princess.(お姫さまみたい)」
照れくさそうに笑ったステラの姿に、咲姉が「いや、普通にモデルじゃん!」と声を上げた。
葵兄も一瞬目を丸くしたけど、すぐに視線をそらして「……似合ってんじゃねぇの」とつぶやいた。
「ありがとう」
ステラが小さな声で答えると、葵兄は耳まで赤くしてた。
* * *
神社へ向かう道は、人でいっぱいだった。
屋台のにおい、鈴の音、冬の空気。
ステラはきょろきょろと辺りを見渡しながら、楽しそうに歩いていた。
「みんなで鐘を鳴らすんだよ」
私が説明すると、ステラは真剣にうなずいた。
拝殿の前で並び、順番が来ると、ステラはぎこちなく手を合わせた。
「二礼、二拍手、一礼、だよ」
咲姉が横で小声で教えると、ステラは少し遅れながらも真似をした。
目を閉じる横顔がとてもきれいで、私はなんだか胸がいっぱいになった。
——何をお願いしたんだろう。
* * *
おみくじを引いたら、私は「吉」。
咲姉は「大吉」で大はしゃぎ。
葵兄は「末吉」だった。
ステラは紙を見つめて、首をかしげていた。
「小吉……? Good? Bad?」
「んー、中くらいってことかな」
私が答えると、ステラはふっと笑った。
「Perfect. Balance is important.(完璧ね。大事なのはバランス)」
その言葉に、私たちは思わず顔を見合わせて笑った。
side:咲
神社から帰ってきたのは、もう夕方だった。
外の空気はぴんと冷えていて、吐く息が白い。
「ふぅ、寒かった〜!」
茜が手をこすり合わせる。
「でも楽しかったよね」
ステラもにこにこしながら答えた。
「おみくじ、みんなで引いたの面白かったね」
ステラは日本語にまだ少しぎこちなさがあるけど、それがまた可愛らしい。
でも、ちゃんと家族みんなに伝わっている。
——本当に、日本に来てくれたんだなって思う。
家に戻ると、お父さんとお母さんが先に準備をしてくれていて、リビングにはお正月らしい料理が並んでいた。
「おかえり!冷えただろう?」
「手、ちゃんと温めなさいよ」
お母さんはストーブの前に湯たんぽを置いてくれて、ステラは「ありがとう」と言ってほっとした顔を見せる。
* * *
そのとき、玄関のチャイムが鳴った。
「……あ、もしかして!」
茜が駆け出すと、そこには祖父母が立っていた。
「明けましておめでとう」
「おめでとうございます!」
ステラは最初少し戸惑ったように立ち尽くしていたけど、すぐに両手でぺこりと頭を下げた。
「おじいちゃん、おばあちゃん……あけましておめでとう!」
「まあまあ!上手に日本語言えたわねぇ」
おばあちゃんは目を細め、ステラを抱きしめた。
おじいちゃんも腕を広げて、にっこり笑う。
「大きくなったなぁ。よく来たな、ステラ!」
「……うん!また会えてうれしい!」
その姿を見て、私の胸がじんわり温かくなる。
遠く離れていたけど、家族の絆はやっぱり消えてなかったんだ。
* * *
夜、リビングはにぎやかなホームパーティになった。
テーブルにはおせちや煮物、祖母特製のお雑煮も並ぶ。
「ステラちゃん、黒豆食べてごらん。健康の意味があるのよ」
「けんこう……?あ、元気になる?」
「そうそう!」
「じゃあ、いっぱい食べる!」
みんなが笑い、ステラも自然に輪の中に入っていた。
咲としては、ちょっと誇らしい気持ちだった。
だって——ステラはもう、家族なんだ。
* * *
食後にはカードゲーム大会。
ステラは最初はルールがわからず首をかしげていたけど、茜が隣で教えてあげて、すぐに夢中になった。
「わぁ!勝った!」
「えー、なんでそんな強いの!」
「ふふ、ラッキー!」
葵は無表情を装っていたけど、ステラが勝つときだけ、口元がちょっとだけ緩んでいた。
ステラはそれに気づいて、嬉しそうに「葵、笑ってる!」とからかう。
「……笑ってねぇよ」
「でも、顔赤いよ?」
「うるさい」
——なんだか二人の距離も、少し縮まった気がする。
* * *
パーティの終盤。
窓の外の夜空を見上げながら、ステラがぽつりとつぶやいた。
「日本って、寒いけど……あったかいね」
「どういう意味?」
私が聞くと、ステラは少し照れながら笑った。
「みんながいて、笑ってるから……心があったかい」
おじいちゃんもおばあちゃんも、父さんも母さんも、にっこり笑ってステラを見ていた。
その瞬間、私は強く思った。
——こうして家族がそろったことは、奇跡みたいに幸せなんだ。
家の中は朝からそわそわしていた。
「ステラちゃん、着物こっちで着せてあげるわよ」
おばあちゃんの声に、ステラは少し緊張した顔をして立ち上がった。
「Kimono… little difficult?(ちょっと難しそう?)」
「大丈夫、大丈夫。おばあちゃんにまかせなさい」
私は横で見守っていたけど、ステラお姉ちゃんが着付けされていく姿に思わず見とれてしまった。
鮮やかな赤い振袖に金の帯。
金髪に合わせて選んだんだってお母さんが言ってたけど、本当にぴったりだった。
「……Wow. I feel like princess.(お姫さまみたい)」
照れくさそうに笑ったステラの姿に、咲姉が「いや、普通にモデルじゃん!」と声を上げた。
葵兄も一瞬目を丸くしたけど、すぐに視線をそらして「……似合ってんじゃねぇの」とつぶやいた。
「ありがとう」
ステラが小さな声で答えると、葵兄は耳まで赤くしてた。
* * *
神社へ向かう道は、人でいっぱいだった。
屋台のにおい、鈴の音、冬の空気。
ステラはきょろきょろと辺りを見渡しながら、楽しそうに歩いていた。
「みんなで鐘を鳴らすんだよ」
私が説明すると、ステラは真剣にうなずいた。
拝殿の前で並び、順番が来ると、ステラはぎこちなく手を合わせた。
「二礼、二拍手、一礼、だよ」
咲姉が横で小声で教えると、ステラは少し遅れながらも真似をした。
目を閉じる横顔がとてもきれいで、私はなんだか胸がいっぱいになった。
——何をお願いしたんだろう。
* * *
おみくじを引いたら、私は「吉」。
咲姉は「大吉」で大はしゃぎ。
葵兄は「末吉」だった。
ステラは紙を見つめて、首をかしげていた。
「小吉……? Good? Bad?」
「んー、中くらいってことかな」
私が答えると、ステラはふっと笑った。
「Perfect. Balance is important.(完璧ね。大事なのはバランス)」
その言葉に、私たちは思わず顔を見合わせて笑った。
side:咲
神社から帰ってきたのは、もう夕方だった。
外の空気はぴんと冷えていて、吐く息が白い。
「ふぅ、寒かった〜!」
茜が手をこすり合わせる。
「でも楽しかったよね」
ステラもにこにこしながら答えた。
「おみくじ、みんなで引いたの面白かったね」
ステラは日本語にまだ少しぎこちなさがあるけど、それがまた可愛らしい。
でも、ちゃんと家族みんなに伝わっている。
——本当に、日本に来てくれたんだなって思う。
家に戻ると、お父さんとお母さんが先に準備をしてくれていて、リビングにはお正月らしい料理が並んでいた。
「おかえり!冷えただろう?」
「手、ちゃんと温めなさいよ」
お母さんはストーブの前に湯たんぽを置いてくれて、ステラは「ありがとう」と言ってほっとした顔を見せる。
* * *
そのとき、玄関のチャイムが鳴った。
「……あ、もしかして!」
茜が駆け出すと、そこには祖父母が立っていた。
「明けましておめでとう」
「おめでとうございます!」
ステラは最初少し戸惑ったように立ち尽くしていたけど、すぐに両手でぺこりと頭を下げた。
「おじいちゃん、おばあちゃん……あけましておめでとう!」
「まあまあ!上手に日本語言えたわねぇ」
おばあちゃんは目を細め、ステラを抱きしめた。
おじいちゃんも腕を広げて、にっこり笑う。
「大きくなったなぁ。よく来たな、ステラ!」
「……うん!また会えてうれしい!」
その姿を見て、私の胸がじんわり温かくなる。
遠く離れていたけど、家族の絆はやっぱり消えてなかったんだ。
* * *
夜、リビングはにぎやかなホームパーティになった。
テーブルにはおせちや煮物、祖母特製のお雑煮も並ぶ。
「ステラちゃん、黒豆食べてごらん。健康の意味があるのよ」
「けんこう……?あ、元気になる?」
「そうそう!」
「じゃあ、いっぱい食べる!」
みんなが笑い、ステラも自然に輪の中に入っていた。
咲としては、ちょっと誇らしい気持ちだった。
だって——ステラはもう、家族なんだ。
* * *
食後にはカードゲーム大会。
ステラは最初はルールがわからず首をかしげていたけど、茜が隣で教えてあげて、すぐに夢中になった。
「わぁ!勝った!」
「えー、なんでそんな強いの!」
「ふふ、ラッキー!」
葵は無表情を装っていたけど、ステラが勝つときだけ、口元がちょっとだけ緩んでいた。
ステラはそれに気づいて、嬉しそうに「葵、笑ってる!」とからかう。
「……笑ってねぇよ」
「でも、顔赤いよ?」
「うるさい」
——なんだか二人の距離も、少し縮まった気がする。
* * *
パーティの終盤。
窓の外の夜空を見上げながら、ステラがぽつりとつぶやいた。
「日本って、寒いけど……あったかいね」
「どういう意味?」
私が聞くと、ステラは少し照れながら笑った。
「みんながいて、笑ってるから……心があったかい」
おじいちゃんもおばあちゃんも、父さんも母さんも、にっこり笑ってステラを見ていた。
その瞬間、私は強く思った。
——こうして家族がそろったことは、奇跡みたいに幸せなんだ。



