side:茜
夏休みが終わって、学校が始まってからも、私は毎日机の中の写真を見ていた。
ロンドンの庭で撮った、あの家族写真。
見るたびに、ステラお姉ちゃんの声や笑顔を思い出して胸がじんとする。
そんなある日の午後。
学校から帰ると、ポストに一通の封筒が入っていた。
青い切手に、見覚えのある字。
「……!」
思わず大声を出してしまった。
差出人は——“Stella”。
* * *
家に駆け込んで、リビングで封を開ける。
中には、淡いピンクの便せんが入っていた。
⸻
Dear family,
日本はどう?
私は学校も元気に行っているけれど、やっぱりみんなのことが恋しいです。
この前はイギリスに来てくれてありがとう。
とても楽しくて、今でも毎日あの写真を見ています。
今度は——私が日本に行ってもいい?
茜の学校を見たいし、日本の食べ物も食べてみたいし、咲や葵ともっと一緒にいたい。
もし許してもらえるなら、冬休みに行きたいです。
Please think about it.
Love,
ステラ
⸻
「……えっ、ステラお姉ちゃんが、日本に?」
私の声に、キッチンからお母さんが顔を出した。
「どうしたの?」
手紙を差し出すと、お母さんの目がぱっと丸くなる。
「まあ……!」
夕方、お父さんも帰ってきて、家族みんなでその手紙を囲んだ。
咲姉は「やったー!」って飛び跳ねて、葵兄は「……部屋の片付けめんどくせぇ」ってぼやいたけど、耳まで赤くなっていた。
お母さんはにっこり笑って言った。
「もちろん、大歓迎よ。家族なんだから」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥があったかくなった。
(今度は……私たちの番だ)
そう思って、私は机に向かい、便せんを取り出した。
「待ってるよ、ステラお姉ちゃん」って書きながら、胸がわくわくでいっぱいになっていた。
side:咲
ステラからの手紙を読んだ夜、我が家はちょっとしたお祭り騒ぎになった。
「冬休みに来るんだって!」
茜が何度も便せんを読み返しながら、目をキラキラさせている。
お母さんはすぐにカレンダーを持ち出して、
「飛行機の便はどうしましょうか。空港まで迎えに行かないとね」
と真剣な顔で予定を組み始めた。
お父さんは新聞を横に置いて、
「日本での滞在先は、もちろんここだな。……葵、部屋をどうする?」
と息子に目を向けた。
「は? なんで俺なんだよ」
「お前の部屋がいちばん広いだろう」
「ちょ、ちょっと待てよ!」
葵が耳まで真っ赤にして抗議する。
私は吹き出しそうになりながらも、心のどこかで(悪くない組み合わせかも)なんて思っていた。
* * *
次の日。
私は放課後に茜と一緒にショッピングモールへ行った。
「ステラお姉ちゃんに何をプレゼントしようかな……」
「日本らしいのがいいよね。和柄のノートとか?」
ふたりで店をうろうろして、結局、桜の模様のしおりと、可愛い和菓子のキーホルダーを選んだ。
茜は「絶対喜んでくれる!」と自信満々。
私は(うん、たぶん……)と心の中で同意した。
* * *
家に帰ると、葵が自分の部屋を片付けているのを見てしまった。
いつも散らかし放題なのに、この日だけは真剣に机を拭いたり、本棚を整えたり。
「……なに見てんだよ」
「ふふ、別に〜?」
ついに耐えきれず、笑いながら部屋を出ると、葵の「ちくしょう……」という声が背中に飛んできた。
* * *
そして週末。
お母さんと一緒にスーパーへ行くと、カートにはお寿司の材料やお餅、甘酒のパックがどんどん積まれていった。
「ステラには日本のお正月を味わってもらわなきゃね」
「お雑煮も作る?」
「もちろん!」
お母さんの張り切りっぷりに、私までワクワクしてきた。
——こうして、ステラを迎える準備は、家族みんなの胸を弾ませながら進んでいった。
side:茜
ステラお姉ちゃんから手紙が届いて数日後。
日曜日の午後、私たちはみんなでおじいちゃんとおばあちゃんの家に集まった。
「実はね……」
お母さんが手紙をテーブルの上に置いた。
おばあちゃんは眼鏡をかけ直して、ゆっくり便せんを読んだ。
そして読み終えると、顔をほころばせて、
「まあまあ……! ステラが日本に来るの?」
と目を輝かせた。
おじいちゃんは「ほぉ……!」と大きくうなずいて、
「そりゃ楽しみだ。うちにも連れてきなさい。正月は一緒に餅をつこうじゃないか」
と張り切っていた。
「お餅つき?」
咲姉が驚くと、おじいちゃんはにやりと笑った。
「臼と杵はまだ残してあるんだ。ステラに日本の正月を味わってもらわんとな」
おばあちゃんも「着物も着せてあげたいわ」と言い出して、
「うちに小柄な訪問着があるの。ステラなら似合うと思うのよ」
と嬉しそうに話している。
「き、着物……!」
私と咲姉は同時に声を上げた。
「絶対かわいい!」
「写真いっぱい撮らなきゃ!」
葵兄はというと、少し照れた顔をしてコタツに潜り込んでしまった。
でも耳が真っ赤で、きっと内心は楽しみにしてるんだ。
* * *
帰り道。
私は咲姉と並んで歩きながら、
「なんか……本当に夢みたいだね」
とつぶやいた。
咲姉は空を見上げて微笑む。
「うん。次は日本で、ちゃんと“家族”の時間を作れるんだよ」
その言葉に、胸がぽかぽかとあたたまった。
夏休みが終わって、学校が始まってからも、私は毎日机の中の写真を見ていた。
ロンドンの庭で撮った、あの家族写真。
見るたびに、ステラお姉ちゃんの声や笑顔を思い出して胸がじんとする。
そんなある日の午後。
学校から帰ると、ポストに一通の封筒が入っていた。
青い切手に、見覚えのある字。
「……!」
思わず大声を出してしまった。
差出人は——“Stella”。
* * *
家に駆け込んで、リビングで封を開ける。
中には、淡いピンクの便せんが入っていた。
⸻
Dear family,
日本はどう?
私は学校も元気に行っているけれど、やっぱりみんなのことが恋しいです。
この前はイギリスに来てくれてありがとう。
とても楽しくて、今でも毎日あの写真を見ています。
今度は——私が日本に行ってもいい?
茜の学校を見たいし、日本の食べ物も食べてみたいし、咲や葵ともっと一緒にいたい。
もし許してもらえるなら、冬休みに行きたいです。
Please think about it.
Love,
ステラ
⸻
「……えっ、ステラお姉ちゃんが、日本に?」
私の声に、キッチンからお母さんが顔を出した。
「どうしたの?」
手紙を差し出すと、お母さんの目がぱっと丸くなる。
「まあ……!」
夕方、お父さんも帰ってきて、家族みんなでその手紙を囲んだ。
咲姉は「やったー!」って飛び跳ねて、葵兄は「……部屋の片付けめんどくせぇ」ってぼやいたけど、耳まで赤くなっていた。
お母さんはにっこり笑って言った。
「もちろん、大歓迎よ。家族なんだから」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥があったかくなった。
(今度は……私たちの番だ)
そう思って、私は机に向かい、便せんを取り出した。
「待ってるよ、ステラお姉ちゃん」って書きながら、胸がわくわくでいっぱいになっていた。
side:咲
ステラからの手紙を読んだ夜、我が家はちょっとしたお祭り騒ぎになった。
「冬休みに来るんだって!」
茜が何度も便せんを読み返しながら、目をキラキラさせている。
お母さんはすぐにカレンダーを持ち出して、
「飛行機の便はどうしましょうか。空港まで迎えに行かないとね」
と真剣な顔で予定を組み始めた。
お父さんは新聞を横に置いて、
「日本での滞在先は、もちろんここだな。……葵、部屋をどうする?」
と息子に目を向けた。
「は? なんで俺なんだよ」
「お前の部屋がいちばん広いだろう」
「ちょ、ちょっと待てよ!」
葵が耳まで真っ赤にして抗議する。
私は吹き出しそうになりながらも、心のどこかで(悪くない組み合わせかも)なんて思っていた。
* * *
次の日。
私は放課後に茜と一緒にショッピングモールへ行った。
「ステラお姉ちゃんに何をプレゼントしようかな……」
「日本らしいのがいいよね。和柄のノートとか?」
ふたりで店をうろうろして、結局、桜の模様のしおりと、可愛い和菓子のキーホルダーを選んだ。
茜は「絶対喜んでくれる!」と自信満々。
私は(うん、たぶん……)と心の中で同意した。
* * *
家に帰ると、葵が自分の部屋を片付けているのを見てしまった。
いつも散らかし放題なのに、この日だけは真剣に机を拭いたり、本棚を整えたり。
「……なに見てんだよ」
「ふふ、別に〜?」
ついに耐えきれず、笑いながら部屋を出ると、葵の「ちくしょう……」という声が背中に飛んできた。
* * *
そして週末。
お母さんと一緒にスーパーへ行くと、カートにはお寿司の材料やお餅、甘酒のパックがどんどん積まれていった。
「ステラには日本のお正月を味わってもらわなきゃね」
「お雑煮も作る?」
「もちろん!」
お母さんの張り切りっぷりに、私までワクワクしてきた。
——こうして、ステラを迎える準備は、家族みんなの胸を弾ませながら進んでいった。
side:茜
ステラお姉ちゃんから手紙が届いて数日後。
日曜日の午後、私たちはみんなでおじいちゃんとおばあちゃんの家に集まった。
「実はね……」
お母さんが手紙をテーブルの上に置いた。
おばあちゃんは眼鏡をかけ直して、ゆっくり便せんを読んだ。
そして読み終えると、顔をほころばせて、
「まあまあ……! ステラが日本に来るの?」
と目を輝かせた。
おじいちゃんは「ほぉ……!」と大きくうなずいて、
「そりゃ楽しみだ。うちにも連れてきなさい。正月は一緒に餅をつこうじゃないか」
と張り切っていた。
「お餅つき?」
咲姉が驚くと、おじいちゃんはにやりと笑った。
「臼と杵はまだ残してあるんだ。ステラに日本の正月を味わってもらわんとな」
おばあちゃんも「着物も着せてあげたいわ」と言い出して、
「うちに小柄な訪問着があるの。ステラなら似合うと思うのよ」
と嬉しそうに話している。
「き、着物……!」
私と咲姉は同時に声を上げた。
「絶対かわいい!」
「写真いっぱい撮らなきゃ!」
葵兄はというと、少し照れた顔をしてコタツに潜り込んでしまった。
でも耳が真っ赤で、きっと内心は楽しみにしてるんだ。
* * *
帰り道。
私は咲姉と並んで歩きながら、
「なんか……本当に夢みたいだね」
とつぶやいた。
咲姉は空を見上げて微笑む。
「うん。次は日本で、ちゃんと“家族”の時間を作れるんだよ」
その言葉に、胸がぽかぽかとあたたまった。



