テレビ取材、始まってみたら――
……思ってた以上に、けっこう本格的だった。
リビング、ダイニング、廊下、階段……どこ行っても、どこかにカメラがある。
私はできるだけ自然にふるまおうって思ってるけど、やっぱりちょっとぎこちない。
結斗くんと郁斗くんなんて、もう完全に“芸能人気取りモード”入ってるし。
でも――ふと、ダイニングの奥から、やさしいピアノの音が聞こえてきた。
その音に誘われるように、私は足を止めた。
***
「……ちゃんと、合わせるの久しぶりだな」
「そもそも、“ちゃんと”合わせたこと、なかった気がする」
怜姉と理人くんが、グランドピアノの前に座ってた。
その並びは――なんていうか、凛としてて、静かな迫力がある。
「じゃあ、せーの、でいこうか」
「ん」
2人の指が、同時に鍵盤に触れた。
♪――
音が重なって、広がった瞬間、空気が変わった。
テレビスタッフたちも、思わず動きを止めてる。
カメラマンさんなんて、息をひそめながら、そーっと寄っていく。
怜姉の旋律に、理人くんが呼応して。
理人くんの和音に、怜姉がすっと色を差し込む。
それは、まるで――ふたりだけの会話みたいだった。
途中、ちょっとだけズレた音に、理人くんが小さく笑う。
怜姉もそれに気づいて、無言で“仕返し”みたいに音を崩す。
でもすぐにまた、音はきれいに寄り添って、
最後の和音まで、ちゃんとたどり着いた。
「……上出来」
「まあまあだな」
そんな言葉を交わすふたりの背中が、なんだかちょっとだけ近づいて見えた。
***
「はいっ、では次っ!お庭でダンスされてる方がいらっしゃるって聞いたんですけど〜!」
声高らかに現れたディレクターさんに、柚姉が満面の笑みで答える。
「はいはーい!双子ダンサー姉弟、出動でーす☆」
「つっても、今日はリハ用の軽い動きだけどな」と綾人くん。
「では、その様子を撮影させてくださーい!」
音楽がスマホから流れる。
あっという間に、2人の空気が変わった。
綾人くんの柔らかいステップに、柚姉のキレのあるターン。
まったく違うタイプなのに、不思議と呼吸が合ってる。
目と目を交わすことなく、動きだけでタイミングがぴたりと揃う。
テレビクルーが「おお……」って声をもらしてたそのとき。
「わたしも踊るー!!!」
「ぼくもー!!」
結斗くんと郁斗くんが、なぜかビーサン&麦わら帽子で乱入!!
「おいっ、ちょっと待て、今は……」
「踊れー!いまテレビ映ってるぞー!!」
2人はなぜか“ひげダンス”みたいな変なステップでカメラ前を横切る。
綾人くん、動きを止めて完全に爆笑。
柚姉も踊りながらツッコミ入れてる。
「もー!アンタたち、ガチ練習のときは近づいちゃダメって言ったでしょ!!」
「いやでも今日リハって言ったー!!」
「それとこれとは違うー!!」
……もはやカオス。
でも、その映像を撮っていたディレクターさんが、ぽつりとつぶやいた。
「……いいなあ、この空気」
それを聞いた柚姉が、ちょっと照れくさそうに笑って言った。
「そうでしょ。なんだかんだ、これが“うちらの日常”なんで」
、今度の沈黙は、少しだけやさしい音がした気がした。
***
場所は変わって、キッチン。
朱莉さんは、大量の野菜を刻みながら、ふーっと息をついた。
その横で、パパが洗ったトマトをタオルで拭いてる。
「……これ、完全に業務用レベルだな」
「だって10人分よ?冷蔵庫もう一台必要かもしれないわ」
ふたりで目を合わせて、ふっと笑う。
そこにカメラはない。静かな、素の夫婦の時間。
「……朱莉」
「なあに?」
「今日さ、怜と理人、ちゃんと目合わせてたな」
「ええ。あれはびっくりした」
朱莉さんは手を止めずに言う。
「理人……ピアノは本当に好きなの。けど、人の輪に入るのは、いつもちょっと後ろから」
「怜も似てるんだよ。あいつ、強そうに見えて、すごく慎重だ」
「……じゃあ、似た者同士かしら」
「だな。ほんと、なんか安心したよ」
包丁の音が、トントントンと鳴る。
「詩ちゃんは、どう?朱莉から見て」
「……かわいいわよ」
「それだけ?」
「ううん。……ちゃんと、見てる子だなって思う。自分のことより、周りの空気を」
パパが、すこし驚いたように息を飲んだ。
「そうか……」
「でも、あんまり背負わせたくないのよね。あの子、たぶんいちばん、“空気読もう”って思っちゃうタイプだから」
朱莉さんは、ちょっとだけ寂しそうに笑った。
パパも、トマトを手にしたまま、黙ってうなずいた。
「家族、ってさ」
「うん」
「ほんと、むずかしいけど……いま、この10人で、よかったなって思うよ」
「……私も」
12
― 柚 side ―
「ちょ、やばくない? 私のジャンプ、完璧すぎなんだけど!」
「そこかい」って綾人にツッコまれたけど、
いやいやマジで今日の私、ベストコンディションだったんだから。
リビングのテレビに映ってるのは、今日の取材映像のダイジェスト版。
スタッフさんが「仮編集です〜」って見せてくれたやつ。
めっちゃ高画質。めっちゃ私かわいい。
やば。永久保存版。
綾人もそこそこ映ってたけど、ちょっと髪乱れてるしな。
ふふ、私の勝ち。
「うわ、結斗と郁斗うるさ……」
「でも映りたがりなだけあって、カメラ慣れしてんの笑う」
「郁斗、何回カメラ目線すんのよ……」
全員で大爆笑。テレビの前でクッション投げあって、完全にパーティーモード。
でも、ふと画面が切り替わって――ピアノのシーンが流れたとき。
リビングの空気が、すこしだけ静かになった。
怜姉と、理人くん。
並んで座って、ひとつの旋律を弾いてる。
顔を見合わせることもなく、ただただ音だけで会話してるふたり。
「……すご」
「この2人、やっぱプロって感じ」
私は思わず見入ってしまった。
なんていうか――この空気、私と綾人じゃ出せないなって思った。
同じ双子でも、方向性が全然ちがう。
うちらは“魅せる”タイプだけど、あのふたりは“引き込む”タイプ。
それに……怜姉。
ステージじゃないのに、あんなに凛としてるのって、ちょっとずるい。
「……あ、ほらっ。ここ、この瞬間の理人、ちょっと笑ってない?」
「ほんとだ。怜姉も口角上がってる。おー、貴重!」
綾人が指差して言って、みんながわっと沸く。
怜姉は「うるさい」って言いながらクッション投げてたけど、
なんか、ちょっと顔がやわらかかった。
そのあと、私たちのダンスシーンが流れて、
変なタイミングで双子ボーイズが乱入して、笑いがまた巻き起こる。
あー、ほんとカオス。
でも、この感じ、キライじゃない。
「テレビって、思ってたより“自分”映るね」
私がふとつぶやいたら、隣にいた理人が少しだけこっち見た。
「……うん。自分じゃ気づいてなかった顔とか、動きとか」
「……あと、しゃべってないときの空気感とかね」
「そう。……そういうとこ、けっこう映るんだなって思った」
理人が、ゆっくりうなずいた。
なんか、この子とふつうに会話できるようになってるの、
地味にすごくない?ってちょっと感動しながら、私は言った。
「……なんかさ。10人家族になって、騒がしいけど、悪くないよね」
「うん。……“音”が多いのって、落ち着かないけど、安心もする」
「そっか、理人は静かな方が得意か」
「……うん。でも、“うるさくても落ち着く場所”って、ちょっといいかも」
へぇ〜〜、と私はにやけそうになるのをこらえて、
何気なくテレビに目を戻した。
画面の中、笑ってる自分がいる。
隣には綾人。後ろには怜姉と理人。
それから詩と依、ちょっと緊張した顔で、でもしっかりみんなを見てる。
……思ってた以上に、けっこう本格的だった。
リビング、ダイニング、廊下、階段……どこ行っても、どこかにカメラがある。
私はできるだけ自然にふるまおうって思ってるけど、やっぱりちょっとぎこちない。
結斗くんと郁斗くんなんて、もう完全に“芸能人気取りモード”入ってるし。
でも――ふと、ダイニングの奥から、やさしいピアノの音が聞こえてきた。
その音に誘われるように、私は足を止めた。
***
「……ちゃんと、合わせるの久しぶりだな」
「そもそも、“ちゃんと”合わせたこと、なかった気がする」
怜姉と理人くんが、グランドピアノの前に座ってた。
その並びは――なんていうか、凛としてて、静かな迫力がある。
「じゃあ、せーの、でいこうか」
「ん」
2人の指が、同時に鍵盤に触れた。
♪――
音が重なって、広がった瞬間、空気が変わった。
テレビスタッフたちも、思わず動きを止めてる。
カメラマンさんなんて、息をひそめながら、そーっと寄っていく。
怜姉の旋律に、理人くんが呼応して。
理人くんの和音に、怜姉がすっと色を差し込む。
それは、まるで――ふたりだけの会話みたいだった。
途中、ちょっとだけズレた音に、理人くんが小さく笑う。
怜姉もそれに気づいて、無言で“仕返し”みたいに音を崩す。
でもすぐにまた、音はきれいに寄り添って、
最後の和音まで、ちゃんとたどり着いた。
「……上出来」
「まあまあだな」
そんな言葉を交わすふたりの背中が、なんだかちょっとだけ近づいて見えた。
***
「はいっ、では次っ!お庭でダンスされてる方がいらっしゃるって聞いたんですけど〜!」
声高らかに現れたディレクターさんに、柚姉が満面の笑みで答える。
「はいはーい!双子ダンサー姉弟、出動でーす☆」
「つっても、今日はリハ用の軽い動きだけどな」と綾人くん。
「では、その様子を撮影させてくださーい!」
音楽がスマホから流れる。
あっという間に、2人の空気が変わった。
綾人くんの柔らかいステップに、柚姉のキレのあるターン。
まったく違うタイプなのに、不思議と呼吸が合ってる。
目と目を交わすことなく、動きだけでタイミングがぴたりと揃う。
テレビクルーが「おお……」って声をもらしてたそのとき。
「わたしも踊るー!!!」
「ぼくもー!!」
結斗くんと郁斗くんが、なぜかビーサン&麦わら帽子で乱入!!
「おいっ、ちょっと待て、今は……」
「踊れー!いまテレビ映ってるぞー!!」
2人はなぜか“ひげダンス”みたいな変なステップでカメラ前を横切る。
綾人くん、動きを止めて完全に爆笑。
柚姉も踊りながらツッコミ入れてる。
「もー!アンタたち、ガチ練習のときは近づいちゃダメって言ったでしょ!!」
「いやでも今日リハって言ったー!!」
「それとこれとは違うー!!」
……もはやカオス。
でも、その映像を撮っていたディレクターさんが、ぽつりとつぶやいた。
「……いいなあ、この空気」
それを聞いた柚姉が、ちょっと照れくさそうに笑って言った。
「そうでしょ。なんだかんだ、これが“うちらの日常”なんで」
、今度の沈黙は、少しだけやさしい音がした気がした。
***
場所は変わって、キッチン。
朱莉さんは、大量の野菜を刻みながら、ふーっと息をついた。
その横で、パパが洗ったトマトをタオルで拭いてる。
「……これ、完全に業務用レベルだな」
「だって10人分よ?冷蔵庫もう一台必要かもしれないわ」
ふたりで目を合わせて、ふっと笑う。
そこにカメラはない。静かな、素の夫婦の時間。
「……朱莉」
「なあに?」
「今日さ、怜と理人、ちゃんと目合わせてたな」
「ええ。あれはびっくりした」
朱莉さんは手を止めずに言う。
「理人……ピアノは本当に好きなの。けど、人の輪に入るのは、いつもちょっと後ろから」
「怜も似てるんだよ。あいつ、強そうに見えて、すごく慎重だ」
「……じゃあ、似た者同士かしら」
「だな。ほんと、なんか安心したよ」
包丁の音が、トントントンと鳴る。
「詩ちゃんは、どう?朱莉から見て」
「……かわいいわよ」
「それだけ?」
「ううん。……ちゃんと、見てる子だなって思う。自分のことより、周りの空気を」
パパが、すこし驚いたように息を飲んだ。
「そうか……」
「でも、あんまり背負わせたくないのよね。あの子、たぶんいちばん、“空気読もう”って思っちゃうタイプだから」
朱莉さんは、ちょっとだけ寂しそうに笑った。
パパも、トマトを手にしたまま、黙ってうなずいた。
「家族、ってさ」
「うん」
「ほんと、むずかしいけど……いま、この10人で、よかったなって思うよ」
「……私も」
12
― 柚 side ―
「ちょ、やばくない? 私のジャンプ、完璧すぎなんだけど!」
「そこかい」って綾人にツッコまれたけど、
いやいやマジで今日の私、ベストコンディションだったんだから。
リビングのテレビに映ってるのは、今日の取材映像のダイジェスト版。
スタッフさんが「仮編集です〜」って見せてくれたやつ。
めっちゃ高画質。めっちゃ私かわいい。
やば。永久保存版。
綾人もそこそこ映ってたけど、ちょっと髪乱れてるしな。
ふふ、私の勝ち。
「うわ、結斗と郁斗うるさ……」
「でも映りたがりなだけあって、カメラ慣れしてんの笑う」
「郁斗、何回カメラ目線すんのよ……」
全員で大爆笑。テレビの前でクッション投げあって、完全にパーティーモード。
でも、ふと画面が切り替わって――ピアノのシーンが流れたとき。
リビングの空気が、すこしだけ静かになった。
怜姉と、理人くん。
並んで座って、ひとつの旋律を弾いてる。
顔を見合わせることもなく、ただただ音だけで会話してるふたり。
「……すご」
「この2人、やっぱプロって感じ」
私は思わず見入ってしまった。
なんていうか――この空気、私と綾人じゃ出せないなって思った。
同じ双子でも、方向性が全然ちがう。
うちらは“魅せる”タイプだけど、あのふたりは“引き込む”タイプ。
それに……怜姉。
ステージじゃないのに、あんなに凛としてるのって、ちょっとずるい。
「……あ、ほらっ。ここ、この瞬間の理人、ちょっと笑ってない?」
「ほんとだ。怜姉も口角上がってる。おー、貴重!」
綾人が指差して言って、みんながわっと沸く。
怜姉は「うるさい」って言いながらクッション投げてたけど、
なんか、ちょっと顔がやわらかかった。
そのあと、私たちのダンスシーンが流れて、
変なタイミングで双子ボーイズが乱入して、笑いがまた巻き起こる。
あー、ほんとカオス。
でも、この感じ、キライじゃない。
「テレビって、思ってたより“自分”映るね」
私がふとつぶやいたら、隣にいた理人が少しだけこっち見た。
「……うん。自分じゃ気づいてなかった顔とか、動きとか」
「……あと、しゃべってないときの空気感とかね」
「そう。……そういうとこ、けっこう映るんだなって思った」
理人が、ゆっくりうなずいた。
なんか、この子とふつうに会話できるようになってるの、
地味にすごくない?ってちょっと感動しながら、私は言った。
「……なんかさ。10人家族になって、騒がしいけど、悪くないよね」
「うん。……“音”が多いのって、落ち着かないけど、安心もする」
「そっか、理人は静かな方が得意か」
「……うん。でも、“うるさくても落ち着く場所”って、ちょっといいかも」
へぇ〜〜、と私はにやけそうになるのをこらえて、
何気なくテレビに目を戻した。
画面の中、笑ってる自分がいる。
隣には綾人。後ろには怜姉と理人。
それから詩と依、ちょっと緊張した顔で、でもしっかりみんなを見てる。



