幻燈ショー ~苦いだけの恋じゃない~

「そもそも好きじゃなかったですし、本性を知ったところで変わりません」

「え、好きじゃないの? じゃあ何でイットの服でここに居るの?」

「成り行きです」


身を乗り出すような距離感の詰め方に()されて、少しばかり肩を引く。


「ホントのこと話していいよ? 口の堅さは保証するから。あ、俺は晴士ね。晴士くんって呼んで」

「……本当もなにも、ただの先生と生徒です」


ぐいぐいと迫ってくる晴士さんに対し、組み立て中のダンボールを持ったまま更に後ずさる。


「じゃあさ、俺が彼氏に立候補しても問題ないよね? 名前は?」

「……椎名芙由です」

「芙由ちゃんみたいな綺麗系好みだし、俺は年齢差も気にしないよ?」


距離を取るために私が立ち上がると、晴士さんも立ち上がり、目線を合わせる。

私が一歩退けば、晴士さんが一歩踏み出す。


「誰かさんみたく捻くれてもないしさ。どう? イットより優良物件でしょ」

「えっと――――ッ!」


私の二歩目。それには想定外な力が加わり、勢いでよろけそうになった。


「晴士、こいつは許可できない」


晴士さんの姿が消えた白一色の視界で、知った声がキッパリと拒絶を告げる。状況が掴めず一瞬混乱したが、眼の前にあったのは白いシャツ、というか一糸先生の背中だった。


「なんでイットが出てくんの?」

「こいつの担任だから」

「俺には生徒とか関係ないじゃん」

「だめ」


相変わらず温度差のある会話は、キャッチボールというよりバッティング練習だ。へらりと挑発的に尋ねる声を、低音ボイスが淡々と打ち返す。

話題の中心は私のままだが、代打として前に立ってくれた先生が少し頼もしい。