幻燈ショー ~苦いだけの恋じゃない~

たった一言二言の会話で、2人の付き合いの長さがみえた気がした。


あらぬ疑いを聞き流す先生も、さらりと腕時計の時刻を読み上げたこの人も、“それで問題ない”関係なのだろう。状況が掴めないなりに、私だけが部外者なのはひしひしと伝わってくる。


「晴士、伝票書き交替な。お前は梱包手伝え」

「え? 私ですか?」


やはりというべきか、この指示にも晴士という人は素直に応じた。


なんで私まで。そう尋ねても無駄に思えて、仕方なく私も先生を追って部屋を出た。




――――あ。


先生が別室のドアを開けた瞬間、わずかに漂ってきた独特な香り。それだけで、この先にある光景がわかる。


広々とした空間のあちこちに置かれたキャンバスや画材。額入りで飾られている絵、壁に立て掛けられているだけの絵、イーゼルに乗せられた絵。中には描きかけの作品もあり、これこそ私が想像していたザ・アトリエだった。


何気なく辺りを見回し、壁フックに吊るされていた絵へ歩み寄る。


A3用紙よりひと回りほど大きなキャンバス全体を使って、黒から鮮やかな青へ、そして淡い青から白へと色の移り変わりが描かれた絵画。言ってしまえば『ただのグラデーション』なのだが、私には異様に美しく見えた。


「何に見える?」


解体されたダンボールの束を抱えた先生が、隣に並ぶ。


「海、宇宙。……涙」

「へぇ、涙ね。そんなに悲しい印象受ける?」

「悲しいというか、綺麗です」

「綺麗な涙ってなに?」


なに?と訊かれても、そこまで考えていないし、わからない。