幻燈ショー ~苦いだけの恋じゃない~

素っ気なく返事をした先生は立ち上がり、ドア横に並んだキャビネットを漁りはじめた。なにやら忙しそうな姿に私はしばらく押し黙っていたが、先生は目もくれず配送用伝票の束を机に置いた。


「……何でハチミツ?」

「なんとなく。砂糖より温まりそうだから」


……そんな効果ないよ。


舌の上まできていた言葉をカフェオレとともに流し込み、丁寧に綴られてく文字を意味もなく追う。


気まずいというより、いまは心の置きどころがわからない。だから私は、脱ぎ捨てられたジャケットから先生がタバコを出すまで、その整った文字を眺め続けた。


「いる?」

「は? タバコを? 要るわけないです」

「だよな」


フッと鼻で笑った先生が、瞬時に表情を戻してタバコを咥える。白煙を吐こうと軽く開いた口元を見て、私はようやく自分の浅はかさに気づいた。


「……宿泊研修のとき、なんで私を疑わなかったんですか」

「やっと話す気になったか?」


先生の質問には答えず、その挑発的な顔を真っ直ぐに見つめ返す。

今日は終始、先生のペースに飲まれっぱなしだ。一々動揺を表に出していたら、足元をすくわれかねない。


「日頃からタバコ吸ってる奴ってさ、他人が吸ってるの見たら欲しくなるんだよ」


静かに話し始めた先生は、ため息なのか深呼吸なのか、耳に届くほどの大きな吐息と一緒に煙を舞い上がらせる。


「公園での一件も含めて、お前の前では何度もタバコ吸ってる。これまで一切関心を示さなかったのに疑う必要ないだろ」

「…………」

「あのときは単に、タバコを持ってた“経緯”より、それを話さない“理由”が気になっただけ」