幻燈ショー ~苦いだけの恋じゃない~

「記憶媒体をいくつも用意しておけば、何度薄らいでも必ず鮮明に思い出せるから。だから、大事なモノこそ誰かと共有しとけ」


親友のカンナに打ち明けるときですら、腹を括るのに相当な時間を要した。大切にしたい想いだからこそ、自分だけのものだ、としまっておいた。それを一糸先生は、誰かと共有しろと言う。


――だが今の私には、全てが些細なこと。


いまは、感情のコントロールで手一杯だ。


自分の中に収まりきれない思いが、涙になって溢れ出てしまう。どうすればこの涙が止まるか、わからない。


「なんで無言になるんだよ、誰かいるだろ。楓って奴とそれができないんなら、榎本でもいいじゃん」


顎の下へ流れ落ちる雫を、何度もカーディガンの袖で拭う。

切り捨てるどころか、ここまで真摯に向き合ってくれるなんて、想定外なんだ。


「……親しい友人だからこそ話せないって言うんだったら、一糸先生にでも話せば?」

「えっ?」

「だから、今日みたいに話せばいいじゃんって言ってんの」


…………一糸先生に?


「だいぶ他人事みたいですけど」


あ然として一糸先生の顔をうかがうと、当の本人はこちらをチラリと見て、ながーく息を吐いた。


「仕方ないから、一緒に覚えといてやる。すっげぇ面倒だけど。お前がどんだけ大事にしてたか、何回泣いたか、共有してやれる存在になってやるよ。はい、解決。良かったな」


ようやく鼻先をこちらへ向けた一糸先生は、眉間に深いシワを蓄えていた。

あからさまに面倒だと訴えてくる表情こそが、その言葉が偽りではない証。そしてその事実が、心の(おり)を魔法のように消し去り、気持ちを軽くする。