幻燈ショー ~苦いだけの恋じゃない~

いつものあっさりとした一糸先生の反応が、優しく、温かく響いてくる。


どうして私はこうも弱いのだろう。泣いている姿なんて見せたくないのに、強くありたいと思うのに、何も伴わない。


「今日の一糸先生、いつも以上に口数が少ないですね」

「…………」


重くなってしまった空気を変えたくて、涙を拭いながら精一杯の笑顔を作る。だが一糸先生は一瞥をくれるだけで、すぐに俯いてしまった。


「じゃあ一つだけ」


タバコを携帯灰皿へ押し潰した一糸先生が、延々と続きそうだった沈黙を破る。


「ネガフィルムってわかる?」

「カメラの? 実物は見たことないですけど」


私が首を傾げると、全部ネット知識だけどさ、と“教師らしからぬ”前置きをされた。


「映画の起源は、幻灯機ってのを使った静止画のスライドショーだったんだと。『幻燈ショー』ってやつ。それが、一本の長いフィルムに連続写真を収められるようになって、映画って呼ばれる動画になったらしい」


たとえ唐突な話題でも、たとえ一糸先生が急に黙っても、私は無表情な横顔を眺めながら次の言葉を待つしかない。


私は一糸先生ほど察しが良くないから、今回は私が右耳に髪を掛けた。


「この前、彼氏との思い出は『写真みたいな記憶』だって言ってただろ。それ聞いて、映画の一コマみたいなもんかなって想像した」


フェンスにもたれた一糸先生は、またしても口を閉ざし、空を仰ぐ。やけにゆっくりと上下した綺麗なまつげを見て、何か言い渋っているのだとさすがに分かった。


「お前の記憶がいくら写真みたいでも、そのネガフィルムは存在しない。形ないものをありのまま残すなんて無理な話だし、記憶が薄らぐのも、気持ちが変わっていくのも仕方ねぇよ」