幻燈ショー ~苦いだけの恋じゃない~

ライターの着火音がすると、風に乗っていつもの匂いが横切っていく。

一糸先生の手元から上がる白煙は、登ってゆくにつれて薄くなり、目に見えないものへと変わる。


「……変わらないものってあると思いますか?」

「どうだろうな」


肯定も否定もしない、ただただ平行線を辿るだけの質問返し。でもそれは、決して交わらない代わりに、限りなく寄り添ってくれているようにも感じる。


「風がない日って、ずっと同じカタチの雲もあるですかね?」

「……変わっていくのが怖いか?」


抽象的な表現で濁したつもりだったが、一糸先生の言葉は、全てを見透かした上での発言に聞こえた。そして、美術室では自制できたはずの想いも、この数十分足らずで、一糸先生の言葉に怯んでしまうほど大きなものになっていた。


「今日、思ってしまったんです。目が合っただけで動揺したり、他の子と仲良くしてる姿に泣きそうになったり。……そういう感情が、煩わしいって」


口に出してしまったことで、一度は飲み込んだセリフが現実味を帯びてくる。


「変化していくことが……怖い、です」


不透明な未来も、無限の可能性もキライだ。いくらでも嫌な想像ができてしまう。


「楓への想いは私の誇りだったのに。なのに、無かったことにしたくないのに……消えて欲しいって、思ってしまうんです。時間が経てば色褪せるなら、はやく、早く失くなれって……」


心の内を明かすと、完全に止まっていたはずの涙が、また込み上げてきた。


「必死に守ったモノなのに、邪魔なモノに思えてくるんです。消えたほうが楽になれるとか……全部がムダだったことになる」


何ひとつ無駄じゃない。楓との時間は一生もの。そう胸を張っていたかったのに、今はできない。


「そっか」