幻燈ショー ~苦いだけの恋じゃない~

体育館から漏れているのであろう歓声と、自分の鼓動が耳の奥で混ざる。心臓のドキドキが階段を駆け上がった末のそれ以上だから、なんとも心地悪い。


「おい、起きろ。パンツ見えるぞ」


お節介先生の第一声に、反射的に上体を起こす。


なぜこの人は、何事もなかったかのように平然と現れるのか。ほんとムカつく。


――あの時、不覚にもこの低音ボイスに安心してしまった。タイミングの悪い登場には、毎度イライラさせられていたはずなのに。


「さすが、リレー選抜だけあって足速いな」


腰を屈めた一糸先生が私の横に置いたのは、『ねぇよ』と一度跳ね除けられたカフェオレだった。


「……ありがとうございます」


見上げた拍子に目が合ってしまい、あの大きな手の感触と温もりが蘇る。一瞬にしてぶり返してきた顔の熱を悟られたくなくて、私は慌てて視線を下げた。


「さっき、何でいたんですか?」

「旧美術室の鍵、渡し忘れてたからお前を探してた」


隣に腰を下ろした一糸先生はタバコを咥えたが、火を点けもせず、ライターもろともタバコを口元から離した。


「声かけられる雰囲気じゃなかったから、暫く様子見てた。悪いな」


この人にとっては無意識かもしれないが、それは謝罪じゃない。私からしてみれば、ただの蛇足だ。


「あの場で泣かずに済んで助かりました。楓に見られる可能性もあったので」

「ああ、振り返って見てたぞ」

「嘘でしょ?」

「さあな」


一糸先生が勿体ぶるように微笑むので、またしても私は、その視線から逃れるために目を伏せた。