幻燈ショー ~苦いだけの恋じゃない~

「こんなとこでサボってていいの?」

「練習試合が始まって今は空き。そういえばさ、俺背ぇ伸びたと思わない?」


頭上に手をかざした楓が一歩踏み出し、2人の距離を縮める。


「ほら。芙由がまた小さくなった」


楓の手が私の頭へ移ると、降って湧いた嬉しさは、瞬く間にもどかしさへ変わった。


「またそうやって――」

「楓くーん! そろそろ準備だよー?」


取って付けたような私の牽制を上書きする、可愛らしい声。すぐさま離れていく楓の手を、寂しいと感じる暇すらなかった。


体育館の入り口付近から飛んできた声が誰のものなのか。姿は見えなくても、その愛くるしい顔がありありと浮かぶ。


「呼ばれてるよ」

「だな。んじゃ行くわ、会えて良かったよ」

「私も。バスケがんばっ――誰にも負けんなよ!」


満面の笑顔で頷いた楓が、あの頃より逞しくなった背を向け、体育館へと駆けて行く。

後を追うように、再び私も歩みを進める。


懐かしい感覚、とでも言うのだろうか。付き合う前も付き合ってからも、私は、バスケにひたむきな後ろ姿をずっと追っていた気がする。


――――大丈夫。


何度目かわからない言葉を唱え、イーゼルをひょいと抱え直す。


部室棟を曲がり、体育館の玄関口。ふと楓の名残りを辿るように視線を流すと、さっきまで私に触れていた手は、今度はマネージャーの髪に添えられていた。


――――違う。悲しむことじゃない。


イーゼルを両腕でぎゅっと抱きかかえ、固く目を閉じる。