一糸先生の身構えない振る舞いと、その素っ気なさへの奇妙な信頼。相反する2つが、私を饒舌にする。
「楓のことは全部、ひっそりとしまっておくって決めたのに。目が合うだけでうろたえるとか――」
そこまで言って、ハッと口をつぐんだ。
私は、一糸先生に対してあまりにも気を許し過ぎている。
「へぇ。……とりあえず、荷物運ぶの手伝え」
「なんか投げやりですね」
「他に言うことはない」
ピシャリと断言されて話が終わると、一糸先生から2台のイーゼルを渡された。
「これ重いんですけど」
「5キロぐらいだからイケるだろ。もたもたしてると日が暮れるぞ」
テキパキと動こうにも、この重さを一度に運んでいたら早く歩けるはずがない。
おぼつかない足取りで1階まで降り、渡り廊下の前で一旦イーゼルを下ろす。
本校舎と旧校舎を繋ぐ、屋根付きの長い吹きさらし通路。屋上へ行くときはいつも道なりに沿うが、急ぎであれば、体育館の前を横切る方が早い。
心を決めてイーゼルを持ち直すと、目前に伸びる渡り廊下ではなく、さきほど全力疾走した道を歩き出す。
――だが数メートル進んだ所で、また足を止める羽目になった。
「ギャラリーに榎本しかいなかったから、帰ったのかと思ってた」
足先にまで響くほどの動悸を、笑顔で覆い隠す。
「ちょっと先生の手伝い。……楓、久しぶりだね」
「うん、久しぶり。ていうか芙由が先生の手伝いって、意外なんだけど」
私のそれとは違う屈託のない微笑みに、ギュッと心臓を掴まれた。
楓への“好き”を初めて自覚したときと同じ。息が詰まるほどに苦しくて、いとおしい痛みだ。
「楓のことは全部、ひっそりとしまっておくって決めたのに。目が合うだけでうろたえるとか――」
そこまで言って、ハッと口をつぐんだ。
私は、一糸先生に対してあまりにも気を許し過ぎている。
「へぇ。……とりあえず、荷物運ぶの手伝え」
「なんか投げやりですね」
「他に言うことはない」
ピシャリと断言されて話が終わると、一糸先生から2台のイーゼルを渡された。
「これ重いんですけど」
「5キロぐらいだからイケるだろ。もたもたしてると日が暮れるぞ」
テキパキと動こうにも、この重さを一度に運んでいたら早く歩けるはずがない。
おぼつかない足取りで1階まで降り、渡り廊下の前で一旦イーゼルを下ろす。
本校舎と旧校舎を繋ぐ、屋根付きの長い吹きさらし通路。屋上へ行くときはいつも道なりに沿うが、急ぎであれば、体育館の前を横切る方が早い。
心を決めてイーゼルを持ち直すと、目前に伸びる渡り廊下ではなく、さきほど全力疾走した道を歩き出す。
――だが数メートル進んだ所で、また足を止める羽目になった。
「ギャラリーに榎本しかいなかったから、帰ったのかと思ってた」
足先にまで響くほどの動悸を、笑顔で覆い隠す。
「ちょっと先生の手伝い。……楓、久しぶりだね」
「うん、久しぶり。ていうか芙由が先生の手伝いって、意外なんだけど」
私のそれとは違う屈託のない微笑みに、ギュッと心臓を掴まれた。
楓への“好き”を初めて自覚したときと同じ。息が詰まるほどに苦しくて、いとおしい痛みだ。
