幻燈ショー ~苦いだけの恋じゃない~

私がどんなに息を切らしていようと、一糸先生の態度は相変わらずだ。まあ、いいけど。


「何を手伝えばいいですかっ!」

「忙しないな、落ち着けよ」

「……カフェオレは?」

「ねぇよ。お前、昨日は来ないって言ってたじゃん」


荷造りの真っ最中だったらしく、一糸先生はダンボールの前に片膝をついたまま、さらりと既読報告をした。

見たなら見たで、何かしらの反応をくれても良かっただろうに。


近くにあった椅子へ腰を下ろすと、重低音を放ち続けている心臓を抑え込むために、深く息を吐く。これが深呼吸なのか、ため息なのか、自分でもよくわからない。


「……大丈夫だと思ってたんです」


黙々と作業を続ける白い背中は、私のつぶやき如きでは動じない。


「目が合っただけで動揺するし、知らない女の子から宣戦布告されるし。もうサイアク」

「修羅場?」


――――修羅場、かぁ。

そうなれれば、少しはラクだったのかもしれない。


「小柄で目がクリッとしてて、すごく可愛かったですよ。真っ直ぐに向かってくるし、素直で良い子なんだと思います」

「でも、気に食わないんだろ」


一糸先生はダンボールを手放すと、向かい側の席へ座った。


私が心の内を話そうとするとき、この人は静かに姿勢を正す。今もそうだ。そっぽを向いていたり頬杖をついていたり、表面的な態度とは一致しないけど、この人の横顔は、耳の輪郭だけは、いつもよく見える。


「……自分が何を望んでるのか、よくわかりません。楓には前に進んで欲しいし、それを応援してます。でも、自分がまだ特別な存在なのかもって思えると、嬉しいんです」