幻燈ショー ~苦いだけの恋じゃない~

咄嗟に顔を背けたが、どんどん鼓動が加速していく。


楓と目が合った気がした瞬間、彼は眉目を下げながら、懐かしい顔で笑った。

たぶん、気のせいじゃない。これまでに何度も経験してきた。楓は、多くの観客の中から私を見つけたのだ。


「ごめんカンナ。私、外に行って来てもいいかな」


普通に話しているつもりなのに、自分の声が震えて聞こえる。


「らしくないよ、ウチが言ったこともう忘れた?」

「ごめん」


ふわっと柔らかく笑うカンナは、まるで涙を誘っているかのようで、私は足早に体育館を出た。


大丈夫だと思っていた。実際に、姿を見る程度は平気だった。でも……あの観客の中で、私が来ていると知らない状況で、楓は私を見つけて微笑んだ。


もたついてしまう手でバッグを漁り、スマホを取り出す。


【椎名です。今から手伝いに行っていいですか】


今回は何の迷いもなく送信ボタンを押した。


一糸先生……。お願いだから、すぐに返事をして。


祈るようにスマホを両手で握りしめる。何の意味もないのは分かっているが、何かしないと気持ちが急いて落ち着かない。

やはり電話するべきか、とりあえず美術室へ向かうか。


「あの……椎名さんですよね」


振り返った私に会釈したその子は、さきほど楓と談笑していたマネージャーらしき女子だった。


「そうですけど、なにか?」

「やっぱり! アタシ中学からバスケ部のマネやってたんで、椎名さんのこと何度も試合で見かけてたんです。今日も楓くんの応援ですか?」