幻燈ショー ~苦いだけの恋じゃない~


明日から復帰する、とカンナから連絡を貰ったのは、病欠3日目の夜だった。

翌朝、玄関で靴を履いていると、インターホンの音とほぼ同時に、目の前のドアが開いた。


「芙由ーッ、兄ちゃんがごめーん!」


挨拶代わりに発せられた謝罪が、私の頭上を越えて家中に響き渡る。


「おはようカンナ」

「おわっ! えっ、今日早くない?」

「私が迎えに行こうと思ったんだけど、結局いつもどおりだね」


数日ぶりの再会を喜びつつ玄関を出ると、大きなあくびに拳を添えている成弥くんと鉢合わせた。


「ちょっと兄ちゃん、芙由にちゃんと謝った? めっちゃ迷惑かけたんでしょ」

「お、芙由おはよ」

「おはよう成弥くん」

「兄ちゃん!」


目的地が同じなので、3人並んで歩くのは極々自然なこと。温度差の激しい兄妹喧嘩もいつものこと。ただ、この2つが同時に発生すると、周囲の視線がより痛い。


徐々に怒りの主旨が変わっていく妹と、全てをのらりくらりと受け流す兄。

校門目前で成弥くんが友人と合流するまで、2人は何度も私の名前を呼んでいた。


「ウチのくそ兄貴がホントにゴメンね」

「もういいって」


成弥くんの本心がどこにあるのかはわからない。でも彼は、他人を傷つけて楽しむ人ではない。

……だからこそタチが悪いのだけど。


「それよりさ、明日のバスケの練習試合どうする?」


靴箱で靴を履き替えながら、話題も切り換える。


陽平から誘われた日に、カンナに連絡はしておいた。避けるほどの地雷でもない。それでもやはり、空気は少しばかり重くなった。