幻燈ショー ~苦いだけの恋じゃない~

2人分の飲み物を買って戻ると、一糸先生はフェンスを背に座り込んでいた。


「お前って意外といい奴だったんだな」


缶コーヒーを傾ける一糸先生を横目に、私もカフェラテにストローを挿す。


「さっきの感想がそれですか。変わってますね」

「普通なら許せないだろ」


並んで座っていると、さきほどよりも目線の高さが近づく。それでも一糸先生と目が合うことはほぼない。

おかげで、言葉を紡ぐのが(いささ)かラクだったりする。


「許せないですよ。でも、裏ボスの最後のセリフを聞いて、私の選択は正しかったって安心しました」

「最後のって、南がどうこうってやつ? てか裏ボスってなに?」


……まずった。


「私、楓の応援によく行ってたんです」

「無視かよ」


完璧な突っ込みをきょとんと見返すと、一糸先生は肩を落としながら、ため息を吐いた。


嫌味たっぷりのあだ名は、本来は自分の中だけで楽しむためのものだ。それなのにサラッと口走ってしまうなんて、私だって自分に呆れている。


「裏ボスに関しては触れないでください」

「はいはい」


不服そうに返事をした一糸先生は、陽に透けて灰色じみた髪を左耳へ掛けた。


「あ、楓って元カレの名前なん――」

「説明はいい」


抑揚のない拒絶はとても乾いて聞こえる。でもその横顔をうかがえば、左耳の3つのピアスホールまで見える。教室ではあり得ない光景だ。


私はカフェラテを一口飲むと、深呼吸とともに、不必要な見栄を吐き切った。