幻燈ショー ~苦いだけの恋じゃない~

吐き捨てるように言った裏ボスは、すぐさま立ち上がり屋上から出ていった。


眉間に深く刻まれたシワ。普段の半分ほどまで細められた目。機敏に動く唇。態度とは一致しない言い分を思い返すと、つい笑いが込み上げてくる。


「なんで嬉しそうに笑ってんの?」


その声は、耳をつんざく爆音のように、(じか)に心臓へ響いた。


誰も居ないはずの空間に湧いて出た、聞き慣れた低音ボイス――。

見たいようで見たくない、恐怖に似た感情を抱きつつ、ドア沿いの死角へ目をやる。そこで壁にもたれて佇んでいたのは、やはり一糸先生だった。


「……なんでいるんですか」

「後から来たのはそっち。こっちは、ホームルーム終わって一服してただけ」


着実に距離を縮めながら、一糸先生がこれ見よがしに煙を吐く。


「いつもタイミング悪く登場するのって偶然ですか」

「お前一人じゃなかったから、帰るのを待ってただけだっつーの。でもまさか、ここで例の詳細が聞けるとはね」


あ然としている内に一糸先生はタバコを消し、目前で立ち塞がった。


10センチ以上の身長差に顔を上げると、攻守逆転がより明白になる。もう何も言い返せない。


「いいよ。もう終わった事だし、お前達の中でも解決してるんだろ。まぁ弁解したいことがあるなら、飲み物でも買いに行くけど?」

「……おごります」

「ブラック、アイスな」


黙って頷き、購買部へ急ぐ。


よくよく考えると、一糸先生を相手に理想の結果を得られた試しがない。毅然と対峙しても、気づけば劣勢になっているし、結局は一糸先生の譲歩で終わる。今だってそうだ。


…………。半年前の私なら、きっとこのまま帰っていただろう。