幻燈ショー ~苦いだけの恋じゃない~

咄嗟に笑顔を作ると、陽平は頷き返してから要の席へと向かった。自席で話を聞いていたであろう要が会釈したので、私もすかさず微笑む。


応援には行きたい。だが楓に会うと分かった以上、私にとっては、すぐに答えを出せるほどの軽い話でもない……。


「ねぇ椎名さん。ちょっと話があるんだけど」


男子2人の談笑を傍観していると、裏ボスに思考もろとも妨げられた。


「ん、いいよ」

「今じゃなくて。放課後、2人で話せる?」

「……わかった」


裏ボスはニコリともせず、艷やかな黒髪を揺らして踵を返す。

さて。私の心配は見事的中したわけだが、どうしたものか。


午後の授業が始まっても、頭の中は『週末のお誘い』と『放課後の約束』で埋め尽くされていた。何が正しいのか。何を優先するべきか。どうすれば、全方位を丸く収められるか。ノートの端に無駄なラクガキが増えるばかりで、答えが出ない。


――それでも帰りのホームルームが終わると、自動的にゴングは鳴る。


裏ボスが立ち上がる姿を横目に、ため息を一つ。これは降参の意思表示じゃない。腹を括っただけ。


「椎名さん、静かに話せる場所知ってる?」

「……他の人達はいいの?」

「2人で話したいって言ったはずだけど」


切り揃えられた前髪の下で、綺麗な眉が鋭利さを増す。


「じゃあ、ちょっと歩くけどついて来て」


誰の目も気にせずに済む場所――。

神妙な面持ちの裏ボスがタイマンでと言うなら、あそこ以外、他に候補はない。


私は先頭に立ち、押し開けたドアの隙間から“不在”を確認した後に、裏ボスを屋上へ招き入れた。