幻燈ショー ~苦いだけの恋じゃない~

私を元気づけているつもりなのか、茶化したいだけか。凡人の私には、王子様の考えなんて計れない。成弥くんと付き合う子はきっと心が広いか、もの好きだ。


人気がある先輩はなにもこの人だけじゃない。それこそ成弥くん界隈の人たちは、学校生活で自然と名前や顔を覚えるほど、生徒たちの話題に挙がる。だが一軍筆頭は紛れもなく成弥くんであり、靴箱につくと、自ずと肩の力が抜けた。



「じゃあな。カンナの遺言よろしくー」

「はいはい」

「あっ、芙由!」


飛び交う朝の挨拶を分け入るように、私の名前が昇降口に響く。


「俺はけっこー好きだよ!」


成弥くんの声は、そのへんの誰よりも大きかった。

周囲から一瞬だけ音が消え、波紋を描くようにどよめきが広がっていく。


――――はあ?

信じられない。なに考えてんだ、このバカ王子は!


自分の影響力を自覚している成弥くんだからこそ、タチが悪い。百歩譲って天然発言だったとしても、待ち受ける結果は決まっている。


案の定、この一件は伝言ゲームのごとく巡り巡っているらしく、休み時間の廊下が普段より騒がしくなった。




昼休みが始まると、すぐさま購買部を経由して、旧校舎の屋上へと逃げる。

バカ王子のせいで最悪だ。


屋上へのドアも、今日はより一層重く感じる。劣化とか、向かい風だからとかじゃない。全ては成弥くんのせい。……いや、自由奔放な兄を頼ったカンナのせいか?


買ってきたサンドイッチとカフェラテを置き、私も大の字になって空を仰ぐ。


薄っすらと白んだ青空の軽やかさに反して、身も心も重い。“注目の的の隣”は慣れていても、人目に晒されるのがこんなにも疲れるとは、想像もしていなかった。