幻燈ショー ~苦いだけの恋じゃない~

「なんつーかさ、虚勢を張ってでも守りたいって、凄いことだよ」


一糸先生の視線が再びこちらへ返ってくる。私がモッさんの前で大泣きしていたときは、こんな風にしっかりと目が合ったことはなかった。


「別れを選べるほどの、その想いの深さとか純粋さとか。そういう真っ直ぐな感情って、意として得られるもんじゃないだろうし、馬鹿にする方がバカだよな」


一糸先生がゆっくりと紡いでいく言葉に、しかと耳を傾ける。

こんな謝罪も感想も欲していない。全てを理解したかのように寄り添って欲しいわけじゃない。それでも――。


堪らず瞼を閉じると、必然的に涙が零れた。


「お前が悪態をついてくるのも、宿泊研修の一件で何も話そうとしなかった理由(わけ)も、今ならなんとなく分かる」

「……すみませんでした」

「いや、悪いのはこっちだし。大事なもんを傷つけておいて、信用しろってのが無理な話だろ」


決して揺らがない、切れ長で鋭い目。横一線に引かれた、薄い唇。

私がぎこちなく笑い返してみても、一糸先生が表情を緩めることはない。


――だからこそ、一歩踏み出せた。


「一糸先生、それは本心ですか?」

「本心だよ。お前が相手だと繕う意味もないしな」


過去の経験は消えない。でもからめ捕られないように、静かに息を吐き切る。


「じゃあ私も。今後はちょっとだけ、一糸先生を信用することにします」

「……好きにして下さい」


たった一言で心が凪ぐ。夏空の下にいても、乾いた温風が髪をさらっても、身体の奥でくすぶっていた熱が引いていく。


相変わらず無愛想な言い方だったが、口元が少しだけ綻んだ瞬間を、私は見逃さなかった。一糸先生が本心だと言ったのだから、きっとこれが、一糸春が初めて見せた“本物の笑顔”だ。