「……よしっ! ちょっと自販機行ってくる! 芙由と春先生は何がいい?」
飛び跳ねる勢いで立ち上がったカンナにハッとして、フェンスの方へ視線を振る。
「ブラックコーヒーをお願いします」
「がってん! アイスだよね。芙由は?」
「えっ、あ、カフェオレ?」
リクエストが出揃うと、カンナは一瞬にして階段の下へと消えていった。限界まで開け放たれて止まったままのドアにも気づいていない。
本来のカンナが戻ってきたのは嬉しい。だが、参った。一糸先生の存在を完全に忘れていた。
突然訪れた気まずさを紛らわすために、折り畳んでいた足を伸ばす。ゆっくりと立ち上がり、屈伸してみる。さして関心はないけど、フェンスに歩み寄り、遠目にグラウンドを眺めてみる。
「悪かった」
それは、雨の最初の一滴に似た謝罪だった。姿勢悪くフェンスにもたれながらも、一糸先生の瞳はしっかりとこちらを見ていた。
「なんの話ですか?」
「くだらないって言ったこと」
ふいと流れた一糸先生の視線が、記憶を遡っているかのように空を仰ぐ。
「前に、綺麗な涙ってなに?って訊いたけど、さっきお前を見てて分かったよ。あの絵はたぶん、綺麗な涙で正解」
「……なに言ってんですか」
唐突過ぎる話題を笑い飛ばそうとしても、端麗な横顔はピクリとも笑わない。
初対面のモッさんは、私の想いを『くだらない』と一蹴した。だから私は、一糸先生は信用に足らない、と判断し続けていた。
私にとっては全てを否定する一言。でもこの人にとっては、記憶にも残らないほどの些細な一言。――勝手にそう思い込んでいた。
飛び跳ねる勢いで立ち上がったカンナにハッとして、フェンスの方へ視線を振る。
「ブラックコーヒーをお願いします」
「がってん! アイスだよね。芙由は?」
「えっ、あ、カフェオレ?」
リクエストが出揃うと、カンナは一瞬にして階段の下へと消えていった。限界まで開け放たれて止まったままのドアにも気づいていない。
本来のカンナが戻ってきたのは嬉しい。だが、参った。一糸先生の存在を完全に忘れていた。
突然訪れた気まずさを紛らわすために、折り畳んでいた足を伸ばす。ゆっくりと立ち上がり、屈伸してみる。さして関心はないけど、フェンスに歩み寄り、遠目にグラウンドを眺めてみる。
「悪かった」
それは、雨の最初の一滴に似た謝罪だった。姿勢悪くフェンスにもたれながらも、一糸先生の瞳はしっかりとこちらを見ていた。
「なんの話ですか?」
「くだらないって言ったこと」
ふいと流れた一糸先生の視線が、記憶を遡っているかのように空を仰ぐ。
「前に、綺麗な涙ってなに?って訊いたけど、さっきお前を見てて分かったよ。あの絵はたぶん、綺麗な涙で正解」
「……なに言ってんですか」
唐突過ぎる話題を笑い飛ばそうとしても、端麗な横顔はピクリとも笑わない。
初対面のモッさんは、私の想いを『くだらない』と一蹴した。だから私は、一糸先生は信用に足らない、と判断し続けていた。
私にとっては全てを否定する一言。でもこの人にとっては、記憶にも残らないほどの些細な一言。――勝手にそう思い込んでいた。
