幻燈ショー ~苦いだけの恋じゃない~

着いてからものの数秒で、小間使いとして働き出す。一糸先生が人を使うことに慣れているのは前回感じたが、私もバイトを始めた甲斐あって、人に使われ慣れてきたらしい。


「いとせんせぇ、ダンボールどこに運びますかー?」


解体された何枚ものダンボールを抱えたまま、玄関から一糸先生を呼ぶ。張り上げた声は、直線的な廊下を駆け抜けるように響いた。


「お前さぁ、朝から元気すぎ」


廊下の最奥、洗面室から気怠げに現れた一糸先生が眉を掻く。

スウェット姿なのはひとまず置いておくとして、メガネにモサモサヘアだと、あの日のモッさんそのものだ。


「ダンボールはこっち」


覇気のない指示に応じて、丸まった背中を追う。


ダンボールを作業部屋に立て掛けると、会話らしい会話もなく、先日のリビング?へと促された。


「ちょっとシャワー浴びてくる」


…………。ぽつんと取り残されてしまい、一糸先生がテーブルに置いていったカフェオレのグラスを見下ろす。

何とも解せない状況だが、ソファに座って待つ以外、やることもない。


氷たっぷりのグラスに注がれたカフェオレは、前回と同じく、一口目からハチミツの優しい甘さがした。9時と指定した本人がこの有り様なのは癇に障るが、このカフェオレ1杯でプラマイゼロ……マイナスイチ程度には許せてしまう。


頭にタオルを被ったまま一糸先生が戻ってきたのは、カフェオレが半分まで減ったころのこと。Tシャツにジーンズ姿の一糸先生を見て、今朝の自分を密かに褒めた。


「今日は何するんですか?」

「要らない画材とかを学校に運ぶ。使える物は授業で使おうと思って」


――――がっこう。