幻燈ショー ~苦いだけの恋じゃない~

またもや先生は、次はタバコの外装フィルムからメモ紙を引き抜いた。さきほどよりもピンと真新しく、書かれている携帯番号もメールアドレスも違う。


「もし晴士に連絡するなら、先にこっちに報告入れて」


つまり、この走り書きは先生の連絡先らしい。


「晴士は悪い奴じゃないし善悪も弁えてるけど、まあ念のため」


言い終えると、先生は残り短いタバコを口へ運んだ。相変わらずの無表情だが、一応は心配してくれているのだろうか。


「たぶん、一生(●●)連絡しないと思いますけど」

「どうだろうな」


鼻で笑いながら、先生がタバコを携帯灰皿に押し込む。


「あ。それ、プライベート用だからバラすなよ」

「……私に教えていいんですか?」

「一応担任だし、子守りする義理があんだろ。じゃ、お疲れ」


片手を上げて去っていく先生を、今度は私が一笑してやった。


フワフワと風に揺れる暗髪と、スマートな後ろ姿。いつだか私を庇うように立ちはだかった広い背中が、いまは似て非なるものに見える。


――――なにが子守りだ。


屋上(ここ)に来てよかった。教師とは親しくなれないと、改めて実感できた。

隠したい一面を知っているのはお互い様なのだから、要はプラマイゼロ。一糸先生らしく、そして椎名芙由らしく在るには、互いに干渉しなければいいだけ。


私は家へ帰ると、貰った2枚の紙を自室のキャビネットに封印した。


これで全て元通り。


実際、夏休みまでの約1ヵ月の間に、この日の出来事は頭の片隅で薄らいでいった。