幻燈ショー ~苦いだけの恋じゃない~

「別に。からかった晴士への仕返しだし、お前が気にすることじゃねぇよ」


あの日、アトリエで作業を続ける晴士さんを放って、一糸先生は焼き鳥屋の中へ消えた。私が知っているのはここまでだが、触れないほうがよかっただろうか?


「……からかわれたの、私ですけど」

「これ以上なにか訊きたいなら、まずはお前が答えろ。タバコの件について」


これ見よがしに、薄い唇の間から白いモヤが吐き出される。胡散臭い教師の仮面を剥がすのには成功したが、この流れは予期していなかった。


少しばかり、現実を見失っていた気がする。


一糸先生はあくまでもオトナ(●●●)で、先生(●●)だ。私の大事なモノを、くだらないと切り捨てた人だ。どれだけ対等に扱ってくれていても、同じ目線で物事を捉えてくれるわけじゃない。


「……じゃあいい加減、本題に入ってくれませんか」


じんわりと沸き上がってきた苛立ちが、フェンスを握る手に伝っていく、

先生が空を仰ぐと、フェンスが軋み、握ったままの左手が微かに引っ張られた。


「本題はこれ」


ストライプシャツの胸ポケットから出てきたのは、ヨレた2つ折りのメモ用紙だった。中身は、携帯番号とメールアドレス、SNSのID。そして右下に【晴士】の文字も――。


「どういう事ですか」

「渡せって言われた」


意味がわからない。


「連絡くれってことですか?」

「好きにすれば」


端的なやり取りを繰り返していた横顔が、一拍おいて吐息を漏らす。


「それと、これ」