幻燈ショー ~苦いだけの恋じゃない~

フェンスに背を預けていた一糸先生の横に並ぶと、私は黙って景色を眺めた。


「……雨降らないまま7月になりそうですね」

「そうですね」

「期末が終わればあっという間に夏休みですし、文化祭の準備も始まりますねぇ」


一糸先生はタバコも吸わず、よそよそしい世間話を続ける。

まさかただの暇潰し……なワケないだろうけど。まあ、とりあえずは流れに乗る。


「私達のクラス、お客さんが殺到しそうですね」

「殺到、しますか?」

「だって陽平と先生、体育祭の後から人気急上昇みたいですし」


ひと月ほど前に終わった体育祭で、青組は惜しくも総合2位だったが、ラストの組対抗リレーでは多くの生徒達を湧かせた。

3人ごぼう抜きを披露した陽平と、上位接戦を単独首位へと変えた一糸先生。ついでに、アンカーとして1位を守りきった成弥くん。この3人の名前は、今でも様々な場面で耳にする。


だから本来ならば、こんな形で2人きりにはなりたくない。


「先生、一つ訊いてもいいですか?」

「どーぞ」

「送り狼、ってなんですか?」


私からの質問に、彫刻のようだった横顔が歪んだ。


「……この前からさ、お前ばっかり質問して不公平じゃない?」


持ち前の眼力でチラリと威嚇した一糸先生が、ズボンの後ろポケットからタバコを取り出す。


実のところ、『送り狼』については既に調べた。だから今回は有耶無耶も許す。この建前だらけの空気を変えられれば十分。


「そういえば、あのあと晴士さん怒ってませんでした?」


笑いを堪えて話題を変えると、今度は目尻だけがピクッ、とよくわからない反応をした。