幻燈ショー ~苦いだけの恋じゃない~

先生は何の説明もせずいなくなるし、わけがわからない。……けど。


帰り支度中だったカンナに声をかけて、教室を出る。

自分勝手な誘いなんて無視すればいい。先生が本当に、自分勝手な人なら。



『アトリエにあった青い絵、途中って話でしたけど、何をイメージして描いてるんですか?』


――あの帰り道、私はもう一つだけ質問した。


夜道を並んで歩きながら、先生が一瞬こちらを見た気配がした。


『それ答えただろ。まだ構想中だから、自分でも何をどう描きたいのかハッキリしてない。強いて言えば、人の中にある何か。あると分かってるけど、見えないからわからない何か』


想定外な反応に、私は首を傾げた。


『構想中って……あれ、答えだったんですか……?』

『は? 質問されたんだから、答え以外に返すもんなんて無いだろ』


私もその通りだと思う。でも、大人達は必ずしもそうじゃない。


あの日、先生は全ての質問に真っ直ぐな答えをくれた。2度目の質問に呆れはしても、なに一つ有耶無耶にはされなかった。

だから、一糸先生が人目を避けてまで呼び出すのなら、私は旧校舎へ行く。


この程度なら、素直に応じても惜しくはない。




毎日のように開閉している、屋上への重い鉄扉。これは、どれだけ慎重に押し開けてもギーッと鈍く唸る。こちらの都合なんてお構いなしだ。


「椎名さん。呼び出してすみません」


至る所から聞こえる喧騒のなかで、一人分の声だけが輪郭を保ったまま耳に触れる。つまりは、ほんとに2人きりということ。