幻燈ショー ~苦いだけの恋じゃない~

「あとは何だっけ? あだ名?」

「あっ、はい」

「えーっと、元々が『イット』で、高校に入ってから『とあちゃん』になった。簡単に言うと、『とあちゃん』も都合のいいキャラってやつだよ」


淡々と話す先生にならい、一旦止めた足を再び踏み出す。両手で缶コーヒーを握りしめると、指先から熱が伝い、足取りまでわずかに軽くなる。


「……いくつもあだ名あるんですね」

「羨ましいか?」

「そういう意味じゃないです」

「あっそ。素直じゃねぇな」


嫌味ったらしく口角を上げる先生を見て、思わず顔を背けていた。


「お前が愛嬌ってのを覚えたらまた呼んでやるよ」


先生の余計な一言で、その『また』が頭の中で繰り返される。

ある意味、晴士さんの冗談よりタチが悪い。いまこの人はモッさんなのか、一糸先生なのか。それともイットか、とあちゃんか。


――結局この奇妙なシチュエーションは、見知った公園を素通りし、いつかと同じ道を辿り、焼き鳥屋まで続いた。



「では、終礼は以上です。あっ椎名さん、ちょっといいですか?」


名前を呼ばれて教壇へ目を向けると、一糸先生がにっこりと微笑んだ。

既に本性を知っている身としては、もうため息すら出ない。


生徒達が続々と帰っていくなか、渋々教卓を挟んで立った私に、先生は教師然とした態度を貫く。


「この後、いつもの場所で待ってます」


――――は?


いつもの場所って、旧校舎の屋上? なんで? 放課後にわざわざ? カンナがいたらマズイ話?