幻燈ショー ~苦いだけの恋じゃない~


衣替えの移行期間が終了し、梅雨真っ只中。なんでも今年は空梅雨らしく、登下校だけでじんわりと汗ばむ日もある。

とはいえ、冷暖房が完備されている教室だと、窓際の席は日差しが心地いい。


――ただ、問題が一つ。

ふとした時に視界へ入ってくる空模様だけは、どうしても好きになれない。


既に夏空と呼べそうな青と、掴めそうなくらいの質量を感じる白。このコントラストを見ると、否が応でも一糸先生の絵を思い出してしまう。



『晴士が悪かったな』


一糸先生がそう呟いたのは、あの日の帰り道。街灯に照らされた一本道を歩きながら、隣にあった先生の顔を盗み見たときのこと。


「あの……訊いてもいいですか?」

「なに」

「環境に応じて変化できる、ってどういう意味ですか? 焼き鳥屋では『とあちゃん』だったのに、何で晴士さんは『イット』なんですか?」

「質問多いな」


面倒くさそうにこちらを見下ろした先生は、いきなり私の肩を押し、ここ左――と進路変更を促す。


私達の会話は、まるで独り言を言い合っているようだった。少しの沈黙で夜道に解け消えて、やはりこの質問も有耶無耶にされるのか、と思った。


「人付き合いとかそういうの。周りの環境によって、一番ラクなキャラクターってあるだろ」


半歩ほど前を歩いていた先生が、角を曲がった先の自販機で立ち止まる。


「お前が知ってる一糸先生も、親しまれやすさを考慮した上でのキャラって感じ。とりあえず上手くいってるし、本性バラすのだけはやめて。あ、これ、飲む用じゃなくて暖とる用な」


先生から差し出されたのは、モッさんが買ってくれたカフェオレと同じだった。