妻は、「エトピリカ」と書かれた水槽の前で足を止めた。 「でも、この鳥を見た時は、心が躍ったわ」 「鳥?」 水槽を見ると、黒っぽい鳥が、水面で足をバタバタとさせていて、飛び立とうにも、足を蹴る場所がなくて。 「まるで溺れてるみたいだね」 と僕は言った。 「そう、溺れてるみたいだったの。でもそれが、なぜか心が躍ったのよ。純粋に、面白いって思ったわ」 「へえ、そうだったんだ」 たしかに、今思えばこの鳥、少し面白いかもしれない。