『魔術が下手くそ』

そんな言葉。人生で聞く機会があると思わなかった。
しょんぼりとした様子の東雲くんを見るに、冗談などでなく本気で言っているのは間違いない。

「そ、そうなんだ…」

「ああ」

「魔術が下手とか…あるんだね」

なんだわたしのこの返し。話下手くそか。

「……魔術って実は結構センスがいるんだ。ねるねるねーるねで、混ぜ加減によって色や味が変わるようなもので」

その混ぜ加減を決めるものこそ、魔術道具になるらしい。

「だからみんな魔術道具にはすごくこだわるんだよ。呪文や魔法陣もほとんどがその人のオリジナルでさ。
一応、旧くから伝わるテンプレートの呪文なんかもあるんだけど、それじゃあ大した魔術は生み出せないから」

「そ、そうなんだ……。じゃあ、今のは東雲くんのオリジナルってこと?」

東雲くんは頷く。

「でも駄目なんだ。見ての通り途中でいつも失敗。花を咲かせるなんて小学校低学年で出来なくちゃいけないのに!」

「へえ…難しそうなのに…。わたしはさっきすごいと思ったし」

実際、なにもないところから花が咲きそうになるのを観て、わたしは感動した。
あれで基礎だなんて、じゃあ本格的な魔術はどれほどのものなのだろう。

「ありがとう。でも俺、本当に駄目でさ。このままじゃ中学を卒業したら高校には行かずに修行の旅に出されてしまいそうだよ」

『高校行きたいのに』と、東雲くんがつぶやく。

いつもの笑顔は消え、ひどく寂しそうにうつむく。

その表情を見て
なんとなくわかった気がした。

東雲くんがみんなに引かれているのにも関わらず魔術書を片手に、魔術の勉強に没頭している理由。
彼はきっと焦っているのだ。
自分の未熟さに。