東雲くんは【平凡】がわからない!

「わ、わわわ……」 

光はキュッと小さくなり、まるで卵が孵化するみたいにパカッと割れた。
そこからするする新たな光が生まれる。それは丸いものでなく、そう…伸びる茎みたいに細く真っ直ぐだ。
茎は数センチ伸びると止まり、その先端にまた丸い光が現れた。
蕾だ。
そう直感的にわかった。
蕾はふくらみ、何かに耐えるようにふるえる、そして……

花が、開く。


……と、思った。が。


「あ、あれ?」

しゅーーん……

それまでの勢いはどこへやら。急に光は輝きを失い、寿命を迎えた豆電球のように儚く消えていく。

「え、あ、あの……」

まるで逆再生でもされたかのように蕾はしほみ、茎は短くなり、もとの小さな玉にもどり……

玉はすこし未練を残すようにチカチカ光ったあと。
跡形もなく消えてしまった。

「あ、あれ?あ、あの、東雲くん……これ……」

「……ああ、やっぱり駄目かあ……」

東雲くんはため息をつくと、ガックリ肩を落とした。
目の色も黒に戻っている。

「東雲、くん…?」

「ごめん、若葉さん。俺……」

目を伏せ、東雲くんは続ける。とっておきの懺悔をするかのような思い詰めた顔で。


「俺、魔術がすごく下手くそなんだ」


東雲くんのため息が、保健室の消毒液の香りに混ざって溶けていった。