東雲くんは【平凡】がわからない!

「……っ」

こんなの馬鹿げてる。
やめなよ、また浮くよ。

でも聞きたい。
わたし、ワクワクドキドキしている。

ゆらゆら揺れる心の天秤。
それはすこしずつドキドキへと傾いていく。


「ま、魔術って…、どうやって使うの?」

「うーん……、詳しく説明すると長くなるんだけど」

東雲くんは腕組みをしながら目をつぶった。

「めちゃくちゃざっくり言うと、この世界には目には見えない魔術のもとみたいな物質があるんだ。それはこの空気中や、俺等の体内にもある」

「え!」

思わず自分の身体を抱きしめる。

「あ、別にだからって怖いものではないから。そもそも魔術士でない人はその物質を使うことなく一生を終えることがほとんどだよ」

『それで…』と東雲くんは右手をすっと上げた。
人差し指には突き指の応急処置のあと。

「俺達はその物質を操ることができる。空気中の物質と自分の体内の物質を呼応させて、魔術へと変換するんだ」

「むう…」

想像してみる。

空気中に魔術のモトみたいなのがある。
そして東雲くんの体内にも魔術のモトがある。
これを…ねるねるねーるねみたいに混ぜ混ぜしたら、チャッチャラー!魔術ができましたー!

「…ってこと?」

「まあ、思いっっきりザッッッリ言えばね」

東雲くんが苦笑いをした。
初めて見る笑い方だ。

「ちなみにこの物質を俺たちはプリマ・マテリアと呼んでいる」

それは聞いたことがあるな。たぶん錬金術の本で。