東雲くんは【平凡】がわからない!

◆◇◆
「んー、突き指かな。骨折はしてないと思うよ。でも痛みが強く続くなら病院行ってね」

保健室の先生はそう言うと、軽く応急処置をしてくれた。

「ありがとうございます、先生」

「いえいえ!……じゃあ私、ちょっと職員室行ってくるから。痛みが落ち着くまでゆっくりしてていいよー」

バタバタと少し慌ただしく先生が出ていき、わたしたちはふたりきりになる。
静かな部屋に、消毒薬のにおい。
何だか胸がちょっと苦しくなった。

「……東雲くん、ごめんね」

「え、どうして若葉さんが謝るの?」

「だって、その……わたしのせいで怪我を……わたしをかばったから」

「い、いやいや、違うよ!若葉さんのせいじゃないよ」

東雲くんはそうハッキリ言った。いつも笑ってる彼には珍しい真剣な表情だった。

「……俺が悪いんだ」

「え?」

「俺がもうちょっと魔術をちゃんと使えていたら……」

「…………」

いや。
いやいやいや。
何言ってるのこの状況で。
魔術なんてそもそも誰も使えないでしょう?
今はそんな冗談言ってる場合?

あまりに空気を読めない発言に脱力してしまいそうになる。

……待って、でも。

わたしの頭にさっきの光景がフラッシュバックする。
あのとき……東雲くんの手から風が巻き起こったように見えた。

それに、今日の社会の時間。
舞っていた花びらに、東雲くんの金色の目。

ありえない。そんなわけない。
目を覚ませ。中二病は卒業しただろう。

でもね、もしかしてもしかしたら

本当かもしれない。

だって、東雲くん。
とても真剣なんだもん。

わたし
すごくドキドキしてるんだもん。