東雲くんは【平凡】がわからない!

「すみませんー!大丈夫ですかー?」

サッカー部員が申し訳なさそうに走ってきた。
わたしは東雲くんのそばに転がるサッカーボールを拾い彼に投げ渡した。

「あざっす!
あの、…怪我とかないですか?」

「…え、と。……東雲くん、大丈夫?」

「うん。ちょっと受けそこねちゃった。でも平気だよ」

サッカー部は安堵の息を吐くと、何度も頭を下げながら練習に戻っていった。グラウンドにいる生徒も何人かこちらを見てお辞儀をしている。

わたしは彼らにお辞儀を返すと東雲くんに向き直った。

「…東雲くん、ありがとう」

「……え」

「その、…かばってくれたよね…。本当にありがとう」

「若葉さん……」

東雲くんが微笑む。

「若葉さんが怪我しなくて良かった」

と、言ってくれた。
その声はとても優しくて、胸の奥がキュンと小さく音を立てる。

…え、キュン?

これって……

(いやいやいや!キュンはやばいでしょ!
魔術書持ち歩いている中二病だよ!?)

慌てて首を振って、湧き上がってきた感情を追い出す。

「し、東雲くん!それじゃあ、行こうか!」

「…う、うん……」

「東雲くん?」

東雲くんの様子が変だ。
笑顔ではあるものの、さっきより少し顔色が悪い。
それに妙に右手を気にしている。

「……東雲くん、もしかして右手……」

「あー、ちょっとだけ……痛いかも」

「っ!腫れてきてる!」

『保健室行こ!』というわたしの声が響いた。