東雲くんは【平凡】がわからない!

「若葉さん!」

東雲くんがわたしの手を引いて下がらせ、かばうように前に立った。

「し、東雲くん!?」

助けてくれたと理解するものの、今度は東雲くんが危ない。

でも東雲くんは落ち着いた様子で右手をスッと出して人差し指をたて、(くう)を切るように動かした。

「………」

何か小声でブツブツ言っているが上手く聞き取れない。

次の瞬間。

ビュウッと風が吹いた。
心地よいそよ風などでなく、吹き荒ぶ突風と呼べるような強い風。

「きゃっ!!」

わたしの髪が激しく舞い、咄嗟に目を閉じた。
風の勢いに身体が押されるような感覚がする。倒れてしまわないよう必死に踏ん張った。

な、なに…?
突然どうしたの?

必死に目を開き、東雲くんを見やる。
舞い遊ぶ自分の髪の毛が邪魔で視界が悪い。
でも、わたしは見た。
東雲くんの右手が少しだけ光っている。
その光から風が生まれ、東雲くんを中心にするように吹き荒れる。

飛んできたサッカーボールは、その風の勢いに押されるように速度を落とす。
そのままゆっくり東雲くんの手に……

と思ったが

「あ、もう駄目だ」

「え?」

東雲くんの手から光が消えた。
途端風はやみ、完全に勢いが消えたわけでなかったサッカーボールは東雲くんの手を直撃した。

「東雲くん!?」