東雲くんは【平凡】がわからない!

一階まで降りて、渡り廊下を通り、体育館前へ。
中では運動部が練習しているようで、掛け声とボールの音がひっきりなしに聞こえている。
窓と体育館の出入り口は開いていて、そこから中の様子が見えた。

「中にいるのはバスケ部とバレー部だね」

「卓球とバドはいつも武道室でやっているから」

なんて、東雲くんと光井さんが話す。

「武道室?」

「体育館とは大グラウンドを挟んで向かいにある建物だよ。小さな体育館って感じ。昔は剣道で使ってたんだって」

東雲くんが指さした先、確かにグラウンドの向こうにかまぼこみたいな形の建物が見える。

「授業でもときどき使うの。…行ってみよっか」

光井さんの提案で、わたしたちは歩き出す。
グラウンドはサッカー部と野球部が使っているので、渡り廊下をぐるりと進み、武道室へと向かった。

途中
「あ、おーい!光井、今いいか?」
後から呼び止められた。

振り向くと、校舎の一階の窓から誰かが顔を出している。
ボサボサ頭で少しくたびれたジャージを着ている男性教師だ。

「美術の土橋(どばし)先生だよ」

東雲くんがわたしに説明してくれた。なるほど言われてみればジャージには絵の具がついていた。

ということはあの窓は美術室…だろう。

「どうしました、先生?」

「少しだけ時間いいか?ちょっと手伝ってほしいんだよ。カンバスを倒しちまってぐちゃぐちゃなんだ。今日は部員ほとんど出てねえし」

「え…でも……」

光井さんがわたしたちの方をチラリと見た。