学校から帰宅すると、隣の家の前に彰久が立っていた。


「あっ、紗季。おかえり」


「……なにやってるの?彰久」


「家の鍵忘れて外出ちゃって。どうしようかなぁって途方に暮れてた」


「どうしようかって、真美ちゃんたちは?」


いつもこの夕方の時間なら真美ちゃんがいるはずだ。


「父さんと母さん、今旅行に行ってる。さすがに鍵開かないから帰ってきてもらうのは申し訳なくて」


なるほど。それでこんな玄関前にいたのか。


「しょうがない。マン喫にでも行くか」


そう言って歩き出そうとした彰久の腕を無意識に取る。


「紗季?」


「や、あの……良かったら、うちくる?」


って、何言ってるの私!?


でも彰久、困ってるみたいだから放っておけなくて。



「う、うん。じゃあ、お邪魔します」



シーンと静まり帰ってた我が家に私と彰久がふたりきり。


そうだ!お父さん今日出張でお母さんは隣町のおばあちゃんの家に行くって言ってたのすっかり忘れてた!



「久々だな。この家来るの」


「そうだね……」


リビングのソファに座りながら、どこか落ち着かないような彰久。
それが移ってか私も自分の家なのに妙にソワソワしてしまう。


「おばさんたちは?」


「あっ、お父さんは出張でお母さんはおばあちゃん家にお泊まり」


数秒の沈黙のあと、彰久が立ち上がった。


「俺やっぱりマン喫行くわ」


「なんで!?」


「なんでって……。それ本気で言ってる?俺、この状況でお前に何もしない自信はない」


初めて見せる彰久の欲を含んだ視線。


それが私に向けられている。


「自覚しろよ、頼むから。俺は男で紗季は女で。紗季を抱きたいってずっと思ってるのにこの状況で手を出さないなんてムリだから」


私を求める表情にドキッとする。


やめてよ。この感情は遠い遠い昔に捨ててきたのに。


「なん、で?なんで今更そんなこと言うの?彰久、昔私のこと好きじゃないって言ったじゃん!」


あの日、幼馴染じゃなくなったあの日。


固く封印したはずの蓋を無遠慮にこじ開けないで。


衝動的に彰久の頬を叩こうと手を上げるけれど、いとも簡単にその手を彰久が掴む。


そして私の自由を奪った彰久は性急に唇を落としてくる。


私、今彰久とキスしてる……?


初めてのキスは呼吸の仕方が分からなくなるほど荒々しくて、角度を変えて深く深く私を求めてくる。


いい加減にしてよ。


私を揶揄って遊んでるんだ。


彰久の唇にガリっと歯を立てる。


「イッ…テ。何するんだよ!」


「こっちのセリフよ!こんないきなり……」


「いきなりじゃないずっと思ってた。紗季に触れたいって。ガキの頃からずっと」


「うそ…」


「嘘じゃない。俺は生まれてからずっと紗季のことが好きだよ」