『ねぇ、初めて一緒に仕事した日の
こと覚えてる?』
肌と肌を重ね合わせ、無気力で
横たわりながら、煙草を咥える彼を
横目に眺めた
営業らしからぬ長めの髪をハーフアップに無造作に縛り、鍛え上げられた肉体が
ルームライトに照らされて少し汗ばんだ
ままだ
『あかねと?
覚えてるさ‥‥‥なんてったて、
あの瀬木 遙が担当だからな。』
まだ幼かった10代の美少年が、
出版社に自費出版したいと言ってきた
のが目を瞑っても蘇る
作家になりたい人なんて数えきれない
ほどいると思う。
今の時代でこそ、同じような作品が
数多くあり盗作と言われても仕方ない
ほどストーリーも似ているのに、
スマホや電子書籍が当たり前になり
アマチュアでもチャンスが掴みやすく
なっている。
紙袋から取り出した分厚い原稿用紙が
当たり前の時代がすでに懐かしいが、
パソコンなどのおかげでやり取りは
何倍にもスピードアップしてるのも
確かだ。
『孝文は瀬木先生の作品に惚れたの
よね?あの後見たこともない顔で
私のところにあの原稿を持ってきた
から。』
横たわる私の髪を撫でながら、
何かを思い出したかのように
フッと笑うと、目を細めて笑った
あの時の孝文の興奮はすごかったな‥
当時は付き合ってもなかったし、
同期入社の営業と校正という立場で、
たまに話すくらいのなかだったのに、
宝物でも見つけたかのように嬉しそう
で、私もツラレて読んだっけ‥‥
『売れると思ったから、今は
追い返さず捕まえておいて良かった
と思う。そうじゃないと、アイツは
あの足で別の出版社にすぐ行って
しまったはずだから。
そう思えば運が良かったよ。』
日和ちゃんの為に書き続けた執念と
言うべき作品に込められたものは
どれも凄かった。
当時無名で10代ということもあった
けれど、短編コラムですらすぐに
問い合わせもあり、次の年には
新人賞を受賞してしまったのだ。
『ふふ‥‥あの性格さえもう少し
良ければ美少年なのに。』
煙草を最後に強く吸い込み灰皿に
それを押し付けると、もう一度横たわり
私の背中に舌を這わせた
『‥‥そんなこと言うとヤケるな。』
『ンッ‥‥明日も仕事でしょ?』
孝文と出会った頃、まさかこんなことを
する仲になるなんて思わなかったな‥



