恋愛日和    after story omnibus

ドアを開けて、誰もいない空間に
帰ってくると、ダイニングテーブルの上に置かれた手紙を見つけて手に取った


『フッ‥‥』


【またね】


そう一言だけ書かれているメモを
手の中で握り締めると、ヒカリにとって
俺の存在の小ささに笑えてくる


なんなんだよ‥本当にアイツは‥‥


さっきまで見合いの件でウジウジ
悩んでいたのが馬鹿みたいで、
教授にすぐ電話をかけた。


『立花です。‥見合いすぐにでも
 出来ます。‥はい‥ええ‥‥
 よろしくお願いします。』


ピッ


通話をオフにすると、こんな時でも
お腹は減るもので、冷蔵庫に何か
入ってないかと開けて固まった


中型のそこまで大きくない冷蔵庫の
3段にびっしり詰まったサラダや
惣菜。そして何より俺の好きな
カレーがタッパーに入っていた


『出てくならこういうの残して
 行くなよな‥‥』


その場に座り込み、1人の女を思って
初めて泣いた。


こんな姿を誰にも見せられないくらい、
カッコ悪くて情け無い涙が溢れて
冷蔵庫の前から動けない‥‥‥


ヒカリ‥‥元気でいろよ?


次の日、知り合いの不動産に頼み、
なるべく早く入居できる賃貸を
探してもらい、2週間後に入れる
物件にサインをして引っ越しをした。


大学からも近くて
気に入ってたんだけどな‥‥。


ヒカリとの思い出もここに置き
そっと住み慣れた家の鍵をかけ
その場を後にした。




『立花君、待たせてすまない。』


『いえ、今来たところですよ。
 お忙しいのに急がせてしまい
 娘さんにもご迷惑をおかけして
 すみません。』


暑すぎてスーツを着るのもツラい
真夏日に、都内のホテルで教授と
待ち合わせをする為ロビーのソファで
アイスコーヒーを飲んでいた


あれからヒカリはどうしてるんだろうと
考える日もあった。


きっと訪ねた際に、俺がいないことに
アイツのことだから呆れるか笑って
いる姿が想像つく


『娘が来るまで一緒にいるつもり
 だったが、予定が入ってしまってね。
 すまないが立花くん、もう少し
 待ってて貰えないかね?』


『構いませんよ、予定はないので。』


『それじゃあ2人で楽しんで。
 またいい報告を楽しみにしてる
 からね。』


いい報告か‥‥。

写真だけ見せてもらったけど、
美人で優しそうな人だった。


俺の何を見て気に入ったのか
知らないけど、実物を見たら
ガッカリするだろうな‥‥