酸いも甘いも毒までぜんぶ

「ほら、着いたよ」

 そう言って彼が指差したのは、ご近所でも有名なマンション。

 なんでも、家賃は高いがコンシェルジュがいたり、ジムが付いていたり、ベーカリーもあるというらしく、いかにもセレブ向けですといった感じのマンションだ。

 つまり、天宮くんは、お金持ちということが導き出せる。

「篠原?」

「あみゃ、天宮くん…私やっぱり…」

 噛み噛みになりながら、天宮くんとの契約をなかったことにしようと口を開く。

 すると彼は私が何を言おうとしているかが分かったらしく、こちらをジッと見下ろしてきた。

 ぴえ…。

「な、なんでもないですぅ」

「ん、じゃあ入ろうね」

 私の言葉に満足したのか、謎の威圧感はなくなって、代わりにリュックを持っていない右手を差し出してきた。