酸いも甘いも毒までぜんぶ

「ワンチャンないか…?」

「何が?」

 いや、愛しのマイホームに戻れたりしないかなって…

「って、誰!?」

 急に頭上から聞こえてきた声に、思わず大声を出してしまった。

「誰って俺のこと知らないの?」

 おん、知らんわ。

 首を横に振りつつ、声の主の様子を伺う。

 はて、この顔、知ってる気がするな。いや、知らないかもしれない。

 恐らくまだ染めたことがないであろう黒髪に、シュッとした顔つき。少し幼く見えることから、私と同い年くらいかちょっと上かな、と思ったりだとか。

 ほんとに誰?

「あ、ほんとに知らないんだ」

「何かすみません」

「全くね。同じクラスだってのに顔も覚えられてないなんて」

 あ、そうなんだ。

「すみません!! 人の顔覚えたりするのが苦手で…」

 だから知ってる気がしたんだ、と勝手に納得する。