無世と有世の恋明暗


 
「……だからって、どうすればいいんだよ」
家に帰ってから、ぼくは独り言をつぶやいた。独り言が増えていると老化が進んでいる証拠らしいが、今はそんなことどうでもいい。
結局、有世は野原と付き合わなかった。……ということは、小川さんの読みどおり、野原の話というのは告白だったらしいが。ほっとするやらなんやら……。……てか、ぼくはマジで、有世のどこが好き、なんだ……?
でも、気持ちを自覚したところで、アプローチなんてできないし、野原みたいに告白とかは……ぼくみたいな根暗野郎にはハードルが高い。
……なら、こういう時は、あいつに相談するか……。
『もっしもーし?律斗くぅーん?』
「あのさ、相談があんだけど」
電話の相手は七沢陸太(ななさわ りくた)ぼくの前の学校の唯一の友達。
『なに?相談?どうした、転校先の学校、よくなかったのか?』
前の学校でいろいろあったからか、陸太からそんな心配をされる。……なんか申し訳なくなってきたぞ。
「いや、大丈夫。クラスの人たちもいい人だったし……。でも、ちょっとある人のことについて陸太に話を聞いてほしくて。」
『え?如月のことじゃないよな?』
「ちがうよ、さすがに。如月のことはもう忘れることにしたんだ」
『……』
「それでさ、陸太。ぼく、今日一目ぼれしちゃって……」
『はぁ⁉』
陸太は驚いた声を出す。……まぁ、そうなるよな、普通。
『ほーっ、で、名前はなんて言うんだ?』
「えっと、有世来花」
『ほほーう。有世ね。覚えた。お前とは反対の苗字……って、えぇ⁉』
「どうしたんだよ、陸太」
急に大声を出したのでびっくりした。……なんなんだよ、一体。
『まさか……あいつの………………………?』
「お、おい、な、なんだよ。聞こえねぇよ」
ツー、ツー、ツー…………。
電話が切れた。


◇◇◇◇◇◇
「おはよ、無世」
朝。私は無世におはようと言った。隣の席だし、いくら琉美絵の好きな人だっていったって挨拶くらいはいいよね?
「あ、あぁ、有世」
無世はなぜか少し緊張した様子で言う。どうしたんだろう?
「あ、あのさ、有世」
「ん?なに、無世!」
「あのさ……」
「おはよー無世くん!」
無世の声は琉美絵の声によってかき消された。琉美絵の好きな人だから、話しかけるのはいいんだけど……。どんな人とのでも、会話がさえぎられるのは嫌だな。
「あ、小川さん」
「フフッ。あのさ、わたしの友達に小川李江っていう子がいて、その子も小川さんでしょ?だからわたしのことは下の名前で呼んでよ。ね?無世くん」
い、いきなり大胆すぎるっ!!
「え?あ、うん、えっ、えぇ?ええええ?」
「琉美絵ってよんで」
「えっ、あっ、うっ、うーん……?」
「ほら呼んで」
琉、琉美絵っ!あ、圧がすごいって……。
「えっ、えーと、琉美絵……さん」
「さんはなしで‼」
「えー…」
「琉っ、琉美絵!ちょ、ちょっと来て‼」
慌てて琉美絵を廊下にひっぱる。
「なによ、来花」
「あ、あのさ……」
無世、嫌がってたよ、とは、言わないほうがいいか。傷つけちゃうかもしれないから。
「あ、あのさ、呼び捨てで呼んでもらうのはまだ早いんじゃない?」
「なんで?」
「ほら、呼び捨てはさ、付き合ったときのお楽しみにしなよ。せっかく付き合えたのに、呼び方の変動がないなんてちょっと悲しくない?」
「んー、まぁ、そうかも……」
「ね、琉美絵」
「来花のいうとおりだね。うんそうする。だけど来花」
「ん?」
「……なんでもない」