「どうしたの?」
ベッドの中から、くぐもった声がした。
「やな夢を見た」
「行方不明の親父さんの?」
「ああ。いや、妹が泣いてる夢だ」
起き上がった女は勇介のくわえ煙草を抜き取り、恍惚とした表情で一服吸った。
「…で?勇介も泣いてたの?」
「バカな。あんなやつのために、俺は泣かないさ」
女はふんと苦笑すると、一糸纏わぬ裸の胸を勇介の広い背中に押しつけた。
背中に感じる乳房の温もりが、勇介の乾いた心に沁みる。
「あたしも小さい頃、よく怖い夢見たわ。誰か知らない悪い人に追いかけられる夢。
夜中に起きては怖くて泣いたなぁ。その時、面倒をみてくれてた施設の人が、
『瑛子ちゃん、夢でよかったね。どんなに怖くても夢の中なら大丈夫。それに、悪い夢はいいことの裏返しだから、朝起きたら、きっといいことがあるよ』
だって。ふふふっ、結局いいことなんて何もなかったけどさ」
