扉を開けると、家の中はシンと静まり返っていた。



まだ真新しい赤いランドセルがだらしなく口を開け、叩きつけられたカエルのように玄関でひしゃげている。



…ったく、しょうがないやつだな。



あちこちに飛び散った教科書や筆箱を片付けていると、薄暗い居間の方から幼い子供のすすり泣く声が聴こえてきた。



智美…



勇介は大きなため息をついた。



やりきれない思いで階段を上がろうとした時、物音に気づいた妹が泣きながら廊下に飛び出してきた。



『お兄ちゃん。お父さん、いつ帰ってくるの?どうしてお家引っ越すの?

本当はお父さん、もう帰ってこないの?ねぇ、お兄ちゃん、お兄ちゃん!』



涙と鼻水でグチョングチョンになった妹の顔をそっと撫でてやる。