賢はといえば、さっきから隣で生あくびを繰り返している。



顔中が口に呑み込まれるほどの大きなあくびの最中に目が合った賢は、気まずい笑みを浮かべ、



「いやぁ、昔から遠足の前の夜は、なかなか寝つけなくて…」



と、うっすら涙の浮かんだ目をこすった。



ふん、どうせトンボの標本でも見てたんでしょうが。



美里は神経が過敏になっている。



修司がくわえた煙草についていた口紅の跡とか、リズムを刻む度に揺れる梨花子のバストの形とか、賢のTシャツの伸びた袖口だとか、普段なら気にもとめないような事にいちいち苛立ちを覚える。