しかし、花の東京へ出てきてからというもの、サッパリである。
まず、同じ学科に女子が一人もいない。
昆虫以外は草野球と、ハルさんの鬱憤晴らしで毎晩のようにつき合わされる麻雀ときたら、女の子と出逢う機会もそうそうない。
人数合わせのために合コンにかり出されたこともあったが、どうしても馴染めなかった。
初めて会った女の子と気のきいたおしゃべりをしたり、ましてやアドレスを聞き出すなんて、賢にとっては信じられないような気恥ずかしい行為だった。
そんな思いをするくらいなら、トンボやバッタの世話をしている方がよっぽど楽しいし癒される―というのが本音である。
そんな彼のことを、友人達は多少の侮蔑と尊敬、そして大いなる親しみを込めて、“トンボ博士”と呼ぶ。
