「彼だけが不幸だなんて言ってるんじゃないの。
世の中には、自分の力ではどうすることもできない何かに怯え、苦しんでる人がたくさんいるはず。
そんなすべての人達に救いの手を差し伸べたい、なんてマリア様みたいなこと言うつもりはないけど…。
彼のあの遠い目が何を見ているのか、それだけはどうしても知りたい」
しばらく二人の間に沈黙の時が流れた。
亜弓は残りのクリームソーダをズズズッと飲み干し、顎を押し上げると、美里の瞳に焦点を合わせた。
「その人を…愛してるんだね」
「……ええ。愛してるわ」
そう初めて声に出して言った途端、目頭が熱くなった。
「だから知りたいの。彼の苦しみを。
それはとても怖くて、つらいことだけど。
そうしなければ、本当に彼のことを理解することはできないと思うの」
