「…って、リアクションなしかよ。せっかく我がR大医学部並みの競争率をゲットしたってのにな」



肩までかかる長い髪をかき上げ、その後に続いたのは、ハルさんと同じ商学部の二回生、金子修司(カネコ シュウジ)。



四国は高知の四万十川でトンボを追いかけて育った賢や、コテコテの関西人ハルさんに比べ、東京生まれの修司は育った環境といい、洗練されたルックスといい、とにかくすべての点で彼らとは一線を画している。



自宅生の中には何かと上京組を見下し、関わることを避けようとする輩が少なくないが、その点、修司は変わり種だ。



映画でしか見たことのない昭和レトロな暮らしぶりが楽しくてしょうがないという様子で、このボロアパートに入り浸っている。



ここには洒落た会話も流行りの遊びもない。



あるのは、六畳一間の真ん中にデンと陣取っている座卓。



どこからか拾ってきたアナログテレビ。



そして、時代に逆行するように、ゆっくり流れる時間だけだ。