腑に落ちないていで、そっと放課後の教室を伺っていた美里は
「どなたかのお姉さんですか?」
と、ふくよかな中年の女性に声をかけられた。
「あの、わたし、高尾山の遠足の時に…」
「ああ、あの時の…」
ケアワーカーのおばさんはにこやかに美里を迎えてくれたが、訪ね人が亜弓だとわかると、途端に顔を曇らせた。
「亜弓ちゃんねぇ。あの子、最近転校しちゃってねぇ…」
「えっ?」
おばさんの話によると、不仲だった両親がとうとう離婚することになり、まだ幼い弟は母親に、そして亜弓は父親に引き取られることになったらしい。
「可哀想にねぇ。あんなに弟をかわいがってたのに、引き裂かれてしまうなんて。
ここだけの話だけどさ、あの父親、アル中で暴力ふるうらしいんだよ。
普段は虫一匹殺せないような、おとなしい顔してさ。
どっちかの子を渡さないと離婚しないってごねたらしいよ」