授業には滑り込み…アウトだった。
「美里、こってり絞られたね~」
「てめぇの授業なんぞ誰もマジ聞きしてねぇんだから、もっと気楽にやれっつーの」
「それより、今日のランチ何かな?」
太陽が真上まで昇ると、今朝の寒さが嘘のように和らいだ。
他愛もないおしゃべりをしながら、真理達と学食へ向かっていた美里は、スロープの途中で黒いベンチコートを身にまとった長身の男とすれ違った。
暖かな陽射しに溢れた午後のキャンパスで、その男の放つ張りつめたような空気感に足が止まる。
思わず振り返った時、二人の目が合った。
「あ…」
心臓を直に触られたような衝撃が走った。
頬はこけ、無精髭を生やしてはいたが、そこに立っていたのは紛れもなく井ノ原勇介、その人だった。
カラカラに乾いた心に、ボッと火の灯る音がした。
しかし、すぐに苦々しい記憶が甦り、美里は頬を強張らせた。
